※転記内容は原文に基づくものであり、誤記・誤変換・符号の欠損等を含みます。
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案件番号:KEK-2023-1005
案件名:野嶋卓真氏 失踪事前リサーチ報告調査
場所:東京都○○区 高架下旧換気塔周辺
調査日:2023年10月5日(木曜日)
天候:不明
調査員:桐野班(現地出張なし、資料調査のみ)
筆記者:酒井 湊
【概要】
2023年9月30日を最後に消息を絶った都市伝説ライター・野嶋卓真氏に関する失踪調査の事前リサーチを実施。ネット上の公開情報、SNS投稿、関連映像記録、関係者証言等を中心に、最低限の事前資料を収集した。現地出張は行わず、確認できる範囲での雑情報整理に留めた。
【現地状況】
高架下旧換気塔とされる封鎖施設周辺では、過去より住民による苦情・噂等が散見されるが、公式資料上は確認できず。被調査者のブログ投稿及び映像データから、現地付近での音声異常、視覚異常(星状光点、歪み)、動物様音声が記録されていた。映像機材は確認済み。編集痕はなく、撮影条件も標準範囲内。
【住民対応】
住民会参加・聞き込み等の接触行為は実施せず。掲示板、SNS、過去ブログ投稿を中心に間接情報のみ収集。現場での直接対応履歴はなし。
【異常箇所】
高架下旧換気塔前において、封鎖鉄扉周辺における視覚・聴覚異常の報告多数。ただしすべて伝聞情報であり、行政資料には記載なし。異常内容は以下:
波形乱れを伴う低周波音(17~19Hz)
透明瓶の存在(ジンと推定)
星座状の光点現象
音声に構造音を含む犬様咆哮
【特記事項】
被調査者周辺から収集した証言において、「Ash」という未知名称が複数回出現。また、被調査者自宅内にてジン、線香、黒色破片、左手負傷など異常行動の痕跡あり。証言者からの心理的影響(悪夢、幻聴)報告も確認されたが、全て伝聞情報の範疇とする。
【写真添付】
なし
【結論】
最低限の資料収集は完了。現地出張の必要性は現段階では認められず、次段階は江草班によるデータ整理に移行する。
【担当】:酒井 湊
【確認】:桐野 隆司
【添付資料】
・参考資料①:野嶋卓真 人物概要
被調査者は、都市構造起因の半神話的オカルト案件を専門とするライターであり、代表作に「層下ノ闇」「窓のない階段」「見えない井戸」などがある。独自の現地取材と実地記録を重視し、ネット・書籍媒体にて独特の立ち位置を築いていた。近年は、都内高架下の旧換気塔とされる施設を中心に、撮影・記録活動を行っていたが、2023年9月30日を最後に消息を絶った。
・参考資料②:被調査者ブログ投稿(失踪前日)
2023年9月29日に被調査者が投稿したブログ記事。高架下旧換気塔付近において、カメラには映らない異常現象を目撃した旨が記載されており、投稿内では犬が喋るという証言も記録されている。被調査者は、自身のみがその異常を認識できたと述べており、事件直前における心理状態の不安定さが示唆される。投稿には「#高架下」「#反射じゃない」「#録画には映らない」「#喋る犬」等のタグが付されており、現場への執着が強まっていたことがうかがえる。
以下、本人による投稿原文抜粋:
「今日の収穫はでかい。ジン片手に鏡と話してる女。けっこうイケてる声で笑うんだが、問題はその声じゃない。問題は後ろで犬が喋ってることだ。あの声は、女の口からじゃなかった」 「カメラは捉えてない。俺の目だけが見た」 「ashってのは犬の名前か…?」 タグ:#高架下 #反射じゃない #録画には映らない #喋る犬
・参考資料③:映像記録「canine_window_03.mp4」抜粋(要約)
2023年9月30日に撮影された、被調査者が現地で収録した映像データ。撮影機材はSONY HDR-CX470、夜間高感度モード使用。編集痕は確認されず、一次データであると推定。
映像には以下の現象が記録されている:
- 00:07 画面中央に女性と思しき人物(短髪、背面から)。金属のドア前に座り、何かを手に持っている。
- 00:14 液体の音。映像左端に透明な瓶(ジンと思われる)を確認。女性が一口飲む。
- 00:26 笑い声(女性のものと推定)。同時に、映像下部で微かに“唸り声”のような音。波形に乱れあり。
- 00:44 女性が鏡状の鉄扉に向かって低く何かを呟く。音声は不明瞭。波形には低周波反応が記録される(17Hz~19Hz)。
- 01:05 カメラが微妙に揺れる(被調査者が後退したと推定)。
- 01:41 鉄扉の表面が歪み始める。複数の“光点”が星座のように現れ、すぐに消える。
- 02:09 女性が首をかしげ、何かに応答する仕草を見せる。口は開いていない。
- 02:32 音声上に犬の咆哮に似た音声。ただし“文法構造に似たパターン”が含まれる(未解読)。
- 03:12 映像終了。以降のデータは破損。
【注】:当該映像を確認後、作成者自身及び調査チームメンバーに以下の異変が発生している:
- 映像視聴中、記録上には存在しない肉声が耳元で聞こえた。
- 映像を視聴した夜、犬声を伴う夢を複数回確認。夢中では「晒せ」という語が繰り返された。
- 鏡のある場所において、“星座状の光点”及び唸り声と血の匂いを感じたという報告がチーム内で複数回得られた。
所見として、視覚的異常と聴覚的異常が同時に発生した可能性が高く、特に“星座状の光点”現象は映像内でも明確に確認される唯一の物証となっている。
・参考資料④:関係者ヒアリング(通話・メール)
被調査者と日常的に交流のあった関係者への通話およびメールによる聴取記録。複数名からの証言を抜粋し、以下のような言及が確認された:
- 証言者A:「“撮ってるのに記録できない”と語っていた」
- 証言者B:「星座スケッチが手帳にあり、“目”の位置が毎回異なると語っていた」
- 証言者C:「“Ash”という名の存在について語り、血と線香の匂いを発していた」
これら証言から、被調査者が失踪直前に強い妄想的体験や、現実と区別困難な知覚を語っていたことが示され、特に「Ash」という名称と匂いの組み合わせは、複数証言者において共通して確認された。
・参考資料⑤:証言者C通話インタビュー(要約)
被証言者Cは被調査者・野嶋氏と十年来のオカルト仲間であり、月に一度程度の頻度で飲み会を共にする交流があった人物である。通話インタビューにおいて、以下のような証言が得られた
証言者Cの証言:
「Ashって名前を聞いたのは、飲み会の夜でした。その晩、家に帰ってから夢を見たんです。薄暗い森を歩いていて、どこか遠くで斧を叩く音がずっと響いてました。姿は見えないのに、その音だけがやけにリアルで……起きた後も耳の奥に残っていた気がしました」
証言者は、被調査者が語った「Ash」という存在の詳細について、血の匂い、線香の匂いと結びつけていたことを証言。また、今後、対面での詳細な聞き取りに応じる意向を示し、都内の喫茶店で直接面談を予定している。
・参考資料⑥:元交際者通話インタビュー(要約)
被調査者の元交際者との通話インタビュー記録。被調査者の私生活や精神状態の変化に関する重要証言が得られた。
証言内容:
「いつもはビールかハイボールだったのに、急にジンを原液で飲み始めた。“これじゃないと見えない”って言ってた。部屋は線香の匂いがして、おばあちゃんの仏壇の香りだと気づいたんです。白檀です。鏡の前に線香と、黒い硝子みたいな破片が置いてあって。左手にいくつか何かに刺されたみたいな傷があって、“犬に噛まれた”って言ってたけど犬なんて飼ってなかった。会うたびにそれが増えていって……(啜り泣く声)……昔から、誰も見ないものを覗くのが好きな人だったんです。」
証言者は、被調査者が特定の時期から急激にアルコール消費傾向を変化させ、線香・破片・傷跡といった異常行動が頻発するようになったことを証言した。また、精神状態の悪化を伴っていたと推察される。
・参考資料⑦:野嶋卓真 観察ノート(家族提供未公開)
本ノートは、失踪後に家族より本報告書作成者へ提供されたものである。現在もオンライン上では未公開とされ、観察記録としての一次資料的価値が高い。※以下、B5ノートからの抜粋。
Ashの姿は定まらない。最初は犬に見えるけど、どんどんほどけていく。女と会話しだすと変わる。 鏡から最初に出るのは唾液。獣臭い。血が混じってる。 “目”は星のようで、数が決まってない。嘘をつくと全部消える。 声は構造音。“観よ”と“晒せ”が重なって聞こえる。一度だけ『意味を問うな』。 腸だけが現実に出てくる。ジンの瓶に触れた。温度があった。 胸が裂けて心臓を腸で持ち上げてくる。あれは贈り物みたい。でも多分俺の心臓。 手を伸ばすと必ずAshから棘を3つ以上刺される。植物の棘、黒かったり白かったりする。薔薇じゃない。浅いのにずっと痛い。 でももうすぐ慣れる。今度は……ちゃんと、触れられると思う。
※補記:ノートの端や余白に、“○の中に十字”の図形がいくつも描かれていた。文脈上の意味は不明。描いた意図も不明。
・参考資料⑧:異常事象まとめ(Ash関連干渉記録、物理干渉パターン整理)
被調査者の観察記録および映像、関係者証言を総合し、以下の異常現象が確認されている:
- 「Ash」の出現には鏡・水面・黒曜石などの反射面が媒介となる。
- 物理的な干渉は“腸”を通じて発生し、実体的な温度を伴うことが記録されている。
- 「Ash」は心臓を「贈り物」のように差し出す行為を行うが、同時に棘によって接触を阻む。
- 棘は植物のものとされ、黒色、白色の変異が確認された。
被調査者および接触者において、夢への干渉(犬声、星の目、斧音など)が発生しており、物理的接触だけでなく夢を通じた心理的侵入が示唆される。
これらの事象はすべて伝聞、一次資料(映像、ノート)からの記録であり、現時点ではいずれも客観的な裏付けは取得されていない。社内分類上、死蔵資料(KEK-X)候補として整理。
・参考資料⑨:象徴的痕跡(○の中に十字)
被調査者の観察ノート、スケッチ帳、メモなど複数の私物において、反復的に「○の中に十字」の図形が描かれていたことが確認された。図形は手書きによるもので、特にページの余白、端部、裏表紙などに集中して描かれている。当該記号の文化的・宗教的背景、民俗的象徴の関連性については未調査であり、現段階では被調査者独自の象徴体系の一部と推定される。意味、意図、描画の理由については不明。
・参考資料⑩:現状評価メモ(一次資料接触者への影響、夢干渉など)
被調査者による映像「canine_window_03.mp4」および観察ノート原本に直接触れた関係者において、以下の共通する影響が確認された:
映像視聴中、映像には存在しないはずの音声が肉声として耳元で聞こえた。
以降、夢の中で「犬声」「星の目」「斧音」など、被調査者記録と類似する要素が繰り返し出現。
観察ノートを読んだ者にも、同様の夢干渉が断続的に発生。
一方、江草班(資料整理班)など整理済み資料のみを扱ったメンバーにおいては、現時点で同様の影響は確認されていない。ただし、班長である江草慎二のみ、作業初期段階で非公式に映像を視聴しており、その後「星の目が閉じる夢を見た」と証言している。
これらの状況から、影響の発生条件は「一次資料への直接接触」に限定される可能性が高いと推察される。
・参考資料⑪:今後の調査方針草案
現時点の資料分析および関係者証言を踏まえ、今後の調査は「Ash」と呼称される存在に関わる類似事例の収集および比較検証を軸とする。特に、以下のポイントを優先事項として第二段階調査へ移行予定:
構造音や星状視覚パターンの報告事例が過去・国内外を問わず存在するか照会。
他の観察記録者や映像記録者における精神的影響、ならびに夢干渉の有無。
「○の中に十字」記号に類似する民俗・宗教的象徴の調査。
映像や観察ノートと接触した第三者への継続的な夢干渉のモニタリング。
これらを通じ、「Ash」の出現条件、干渉範囲、ならびに被調査者・野嶋卓真氏の行動との因果的関係をより明確にしていくことを目的とする。