02_野嶋卓真 失踪調査報告書(第二段階)

※転記内容は原文に基づくものであり、誤記・誤変換・符号の欠損等を含みます。
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案件番号:KEK-2023-1005

案件名:野嶋卓真氏 失踪調査報告(第二段階)
調査場所:東京都○○区 高架下旧換気塔周辺
調査日:2023年10月19日~11月3日(計3回調査)
調査員:酒井 湊

【概要】
本報告書は、第一段階調査において収集・整理された資料を基に、被調査者・野嶋卓真氏失踪に関する現地調査および関係者への直接聞き取りを行い、物理的痕跡と精神的影響双方の確認を目的とする。調査範囲は都市構造内における干渉領域の実地踏査、関連証言者への聞き取り、および調査者自身への影響記録を含む。

【関係者証言記録】
証言者C(野嶋卓真氏の飲み仲間・オカルトSNS仲間)インタビュー
※聞き取り日:2023年10月19日
※場所:都内某喫茶店
※聞き手:酒井湊

証言者C(飲み仲間・オカルトSNS仲間)の詳細な証言内容、および図 1 ~図 2は、第一段階資料との高い整合性を確認し、精神的連鎖の裏付け資料とする。

「一回目の飲みのときはまだギリ普通でしたよ。野嶋がノート出して、スケッチ描きながら『最近、鏡の中でだけ“あいつ”が見えるんだ』って言ってて。
スケッチ見たら、まぁ犬っぽい。目がいっぱいで…口の中がグロいんっすよね…何かの設定考えてるのかと思ったんですよ。“クトゥルフっぽいな”って言ったら、『そういう分類じゃない』って怒ってて。
あぁ持って来てますよ。これです。(図 1 参照)
その時は『夢でも見たんだろ』『酒減らせ』って笑い飛ばしてた。でもあいつ、目だけ真顔だったな。

図 1 スケッチ1(鏡越しに見えた存在の初期形態(野嶋卓真筆))

付記:スケッチの取扱いと調査手法

図 1は、証言者Cより借用し、撮影後に返却したものである。なお、調査時における視覚資料の扱いについては以下の通りとした。

1) 証言者の描写と一致する図像資料を視覚的証拠として仮登録
2) 記録媒体はすべて非編集状態で保管(撮影機材:SONY α7C)
3) 目視観察時の記録は調査員自筆に限定し、文責の所在を明確化

二回目? あれは……ひと月後。別人だった。目が“向こう”に向いてる。口の端が震えてて、言葉に追いついてない感じ。
『最近、Ashの形が見えるようになってきた』『犬じゃない、犬みたいに見えるのは最初だけ』って。
『鏡の中から出てくるんだよ。最初は唾液と血が鏡から溢れてくる。それが床に溜まって、粘液の上でAshが、犬みたいに腹を見せて……心地良さそうに解けていく。腹がゆっくり口を開くみたいに裂けて、内臓が溢れるんだ、ぬちゃぬちゃ音を立てて』って……。
カメラには何も映ってないって、何度も言ってた。『なぁ、お前も一緒に見に行こう』って言われて、正直、笑えなかった。
それが……これです(図 2 参照)
ぐしゃぐしゃに見えるけど、ちゃんと意図がある線。腸が心臓持ち上げてるし、顔じゃなくて“目”が星みたいに散らばってる。
『この目は、笑うと減る』『嘘をつくと全部消える』『恐れると集まる』とか言ってた。こっちは聞いてるだけで手が汗びっしょりですよ。
最後に『これは記録じゃない。契約だ』って言った。あの一言がずっと頭から離れないんですよ。
あいつは記録者でいたかったんじゃない。“渡された”側になったんだと思う。」

図 2 スケッチ2(変質後の“存在”の構造図と仮定される描写(野嶋卓真筆))

付記:スケッチの取扱いと調査手法(図 2 関連)

図 2は、証言者Cより借用した二枚目のスケッチを撮影したものである。返却前に現物確認を行い、野嶋卓真氏本人の筆跡との一致を確認している。調査時における視覚資料の扱いは、以下の要領に従った。

1)スケッチの構図・筆致・文脈的接続性を踏まえ、“構造図としての仮説的機能”を有するものとして準資料登録
2)撮影は全過程を非加工で実施(使用機材:SONY α7C/F1.8 50mm 単焦点レンズ)
3)描写に含まれる象徴的要素の解釈は調査段階では保留とし、図像の存在そのものを視覚証言の一端として記録化
4)異常描写の内容(腸状構造・多眼配置等)については、後続の聞き取りおよび分析結果と照合の上、分類を行う予定

【現地踏査記録】

被調査者が失踪直前まで取材対象としていたとされる都内某所の旧換気塔周辺(通称:高架下の空洞帯)について、調査者自身が複数回の現地訪問を実施した。

【第一回調査】2023年10月22日深夜(酒井 湊単独)
撮影現場と見られる地点にて、燃焼の痕跡が残る線香の燃え殻、焦げた香料片、錆びた排水口周辺のガラス片、および犬種不明の体毛を確認・回収。
現地環境は夜間無人、通報歴なし。
犬体毛は短毛で黒褐色、付着粘液は微量ながら血液反応あり。

【第二回調査】2023年10月29日未明(酒井 湊単独)
封鎖された鉄扉状構造物の前にて、微細な金属片と乾いた白濁液の痕跡を発見。 白濁液は既に乾燥しており、組成分析未実施ながら、動物性タンパク質の腐敗臭を帯びていた。 鉄扉構造、錆び、破損箇所は映像記録「canine_window_03.mp4」と完全一致。

■夢および異常体験

1)夢に現れた人物像に関する記録(第一回体験)
※記録日:20XX年10月23日未明(第一回現地調査翌朝)

作成者は、第一回現地調査後に明晰夢を体験した。以下はその詳細である。

※第一回調査後(10月23日未明) 調査者は明晰夢を体験。夢内では20代前後と見られる若年男性が出現。顔貌は極端に均整が取れており、髪は漆黒で腰を越える長さ。身体中央(鳩尾から股間)が縦に裂けており、内部から白布状のものが内臓のように伸び出していた。白布は本人の動きと独立して繁茂するかのように動き、接触はなし。発声はなく、視線をこちらに向けたまま微笑。

2) 夢に現れた人物像に関する補足記録(第二回体験)
※第二回調査後(10月30日未明) 同一人物が再び夢内に出現。本回では以下の変化が確認された。
夢内にて男が「お前も俺と話したいのか?」と発声。
発声は物理的な音響を伴い、夢内空間全体に響く実音のような印象。
男の表情は笑みを縮め、眼球も収束的な挙動を見せた。

これらの体験から、視覚のみだった接触が双方向的な構造へ移行したと判断。

3)同日朝、観察ノートへの自動記述現象を確認。

内容:「これは記録だ。だが誰の記録か? 記録していると思っていた。だが、記録されている。」

筆跡、文体ともに調査者本人と一致。記憶にはなく、文字の濃度も経時的に変化。

主客転倒的干渉の初期徴候と判断。

【有識者ヒアリング】

安原功一(都内大学・民俗学講師)
※聞き取り日:2023年10月30日
※場所:都内某大学研究室
※聞き手:酒井湊

安原氏は“鏡を通じた出現現象”について、南西中国の“返し鏡”信仰と、東北日本の“座敷儀式”の融合系譜との仮説を提示した。

「南西中国の“返し鏡”信仰と、東北日本の“座敷儀式”が融合した系譜でしょうね。本来は“音声を通す”ためのものだったのが、何らかの逆照射を起こして視覚化した──そういう系統の話は多いんです。」

会話中、文脈に合致しない語を挟む傾向も見られ、以下のような発言が確認された:

「目を見てはいけない、笑うと減る──いや、そういうのはフィリピンの山岳部族に……ああ、失礼。なんでしたっけ?」
「腹から出るって話は聞いたことがない。ただ、裂けるとしたら鳩尾から下、じゃないですか。ああ、これは……資料にあったかな?」

また、調査者が図 2を提示した際には、「契約文ですね、これは」と述べた直後に「あくまで比喩的に」と訂正を加えた。

本証言は、内容に誤認が含まれる可能性があるが、“観察ノート”との共鳴が認められるため、思考介入の影響を含めて資料登録とする。

■ 安原インタビュー後の異常事象に関する覚書
※確認日:2023年10月31日(インタビュー翌日)

安原氏とのインタビューを終え、帰宅後に玄関のドアを開けた瞬間、強い線香の匂いを感知。明らかに外気とは異なる濃厚な香りであり、第一回現地調査時に確認された焦げた香料片と酷似。
就寝前、自宅の洗面所にて鏡越しに“白布の端”のようなものを視認。左端から右下へ流れるように動き、振り返っても実体は存在せず。現象は30秒程度で消失。
翌朝、インタビューで使用したICレコーダーに赤茶けた粘液の付着を確認。金属的な臭気と動物性タンパク質を含むにおいがあり、第一段階で回収された犬体毛と類似した成分である可能性あり。

この一連の現象は、「鏡を媒介とした通話構造」が、比喩を超えて物理的現実へ浸透しつつある兆候と捉えられる。

■ 差出人不明のジンの到着について
※確認日:2023年11月1日(インタビュー翌々日)
11月1日深夜、作成者宛に差出人不明の小包が配達されていたことを翌朝確認。内容物は以下の通り。

  • ギルビージン 37.5° 700ml(開封済み)
  • 液面が数センチ下がっており、“一口だけ”飲まれた痕跡
  • 気泡ラップで直接梱包。差出人欄は空白、消印は不明瞭
  • ラベルに擦れと指紋らしき跡、キャップは若干緩み、アルコール臭あり
  • 微かにサンダルウッド様の香りを帯びる

作成者はAmazon等の注文履歴を確認したが、該当商品を購入した記録はなし。知人からの贈答とも考えたが、関連し得る人物からの言及はなく、現在までに由来は不明。
本件は“構造的贈与”の兆候として、あるいは対象が一方的に作成者を“受取手”として指定した痕跡である可能性を考慮し、記録に残す。

※以降、明確な夢の記録は存在しない。

  • 自宅洗面所での白布の幻視
  • ICレコーダーへの粘液付着
  • 差出人不明のジン到着

以降、明確な夢の記録消失

【追加現地踏査記録】

■ 第三回現地踏査と異常遭遇記録
※第三回調査:2023年11月2日深夜(飲酒後の強行調査、酒井 湊単独)
※差出人不明のジン(ギルビージン 37.5°)を開封後、当初は味見程度のつもりであったが、筆記作業中に思考が昂ぶり、気づけば1本すべてを飲み切っていた。

酩酊状態のまま、「確認だけ」と自らに言い聞かせ、現地へ向かった。

封鎖エリア手前で、20代後半〜30代前半程度と見られる女性とすれ違う。酩酊のため詳細な特徴は失念したが、以下の点が強く印象に残っている:

  • 短髪、小柄
  • 声は落ち着いていたが、異様にくぐもっていた

「あんたが、代わりか?」

反射的に「……違う」と答えた瞬間、強烈な寒気と動悸に襲われ、現場を即座に離脱した。 携帯していた録音機には女性の声は記録されていなかった。

帰宅後、激しい吐き気に襲われ、洗面所にて黒色の粘性物を複数回嘔吐。

■ 帰宅後に生じた身体異常および吐瀉物に関する記録

  • 黒に近い暗赤色、墨汁または凝固した血液に酷似。
  • 粘性が高く、匂いは焦げた布と有機物の混合臭に近い。

吐瀉時、一時的に意識を喪失し床へ倒れ、軽度の頭部打撲を確認。 翌朝、現場の吐瀉痕跡は明確に残っており、物理的証拠として保存可能な状態であった。

なお、本件以降、明確な夢の記録は存在しない。

【結論】
本段階調査において、第一段階で収集された資料群の物理的裏付けが、現地踏査および関係者証言の双方により確認された。また、調査者自身への心理的・身体的影響は累積的に深刻化し、調査対象である干渉構造が「記録」領域を超えて、現実空間への直接的浸透段階へ移行しつつある兆候が複数確認された。

特に以下の点が重要視される:

  • 現地構造物周辺における物理的痕跡の蓄積および変質傾向。
  • 調査者における夢干渉現象から物理的症状への遷移。
  • 関係者証言において記録された象徴行動の再現性と、被調査者の精神構造と同様の変質過程の兆候。

以上を踏まえ、本件は速やかに第三段階調査(収束・隔離フェーズ)への移行を推奨し、関係者の緊急保護措置、ならびに異常構造への対応指針案の早急な策定を検討すべきと判断する。


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