ဦးဉမ်း(ウ・ニャン)

所属

株式会社 環境構成影響研究所(構影)
調査管理部・資料整理班(江草班)

生年月日

1984年

外見

第一印象からすでに“人間としての存在感”が他とは異なる。小柄で、身長は160cm台。だが、華奢というよりも「乾いた硬さ」を持つ体つきで、筋肉質というよりは、削ぎ落とされた骨と皮で構成されているような印象を与える。

肌は深く焼けた褐色。年齢の割に皺が多く、皮膚には細かい傷や火傷痕が刻まれている。野外での過酷な生活と熱による負傷の跡が、その身体を“履歴”に変えている。

顔立ちはカレン族の特徴を色濃く残し、頬骨は高く、顎はやや角張っている。鼻筋は通っているが目立たず、表情は常に無表情。だが、目だけが異様に大きく、暗く、虚ろで、何も見ていないようでいてすべてを記録しているような視線をしている。

髪は黒く、伸ばしすぎず、常に後頭部で簡素に一つに束ねている。毛質は硬く、光を吸うようにツヤがない。耳にはピアスや装飾はなく、ただただ“整えている”というだけの機能的な清潔感がある。

服装は一貫して地味で実用的。
ブラウンや墨色を基調とした織り柄のシャツを好み、無地ではないが装飾性はほぼ皆無。
下はカーキや黒の細身パンツ。靴はスリッポン。特定の民族衣装を着ているわけではないが、どこかに“出自の影”が見える選び方をしている。

動きに無駄がなく、物音を立てないため、すぐ近くに立っていても誰にも気づかれないことがある。
だが、一度視界に入ってしまうと、なぜか目が離せなくなる。**「この人は、何かが決定的に違う」**という違和感が、言語ではなく皮膚感覚で伝わってくる。

誰かが近くにいても話しかけない限り、ニャンがそこにいることにすら気づかないこともある。
だが、彼がこちらを見ていると、誰もが本能的に「黙る」──そんな外見と気配を持っている。

話し方

ウ・ニャンはほとんど口を開かない
社内で彼の声を聞いたことがある職員は限られており、数年に一度「話した」と記録された程度である。
雑談やあいさつ、報告、確認など、通常業務において発話を求められる場面でも、彼は基本的に無言を貫く

それでも必要に応じて発話することはあり、
その場合は、一語か二語だけを簡潔に発する

例:

  • 「済」
  • 「違う」
  • 「確認した」
  • 「削除する」
  • 「不要」
  • 「見た」
  • 「…火の跡」
  • 「…それ、呪い」
    など。

文法的には片言だが、言葉の選び方に無駄がなく、正確かつ静か。
発音は濁らず、抑揚もなく、「機械よりも機械的」と形容されることもある。

彼が発話するのは、

  • 暗号処理や機密書類の扱いで誤操作が起こりそうなとき
  • 怪異資料に“危険な何か”が混入していると判断したとき
  • 班内で唯一、自分が修正を加えるべきと判断したとき
    などに限られる。

基本的に返事はしないため、話しかけた側が“独り言のように話して自己解決する”場面が多発する。
ビシャンや千田から日常的に話しかけられているが、常に無反応。
それでも彼らは気にせず話し続けている。

まれに、他者が彼のファイルや資料を不用意に触れた場合などに、
不意に「…触るな」とだけ呟かれることがある。
その一言が、社内では「ニャンの警告」として恐れられている。

内面・歪み

ウ・ニャンの内面は、構影の中でも特異である。
歪んでいるようで、もはや歪むという概念の外側にある

彼は「感情を抑えている」のではない。
最初から「感情を必要としない状態」へと、生活と環境によって成り果てた存在である。
戦場で育ち、死体と霊と火と空腹に囲まれて、言葉より先に“記録と判別”を覚えた子どもは、
その後の人生でも「それが必要か/不要か」だけで世界を処理するようになる。

怪異に対しても、「怖い」「信じる」といった情緒は皆無である。
彼にとって怪異とは、「現象」であり「データ」であり「記録対象」に過ぎない。
目の前で人が消えても、幽霊が現れても、
それが“発生条件を持つかどうか”が、彼にとっての判断基準だ。

祖国で見てきた死体と怨霊の方が、よほど恐ろしかった。
ジャングルに放置された肉塊、祈りと呪いの混じった焼けた骨。
それらに比べれば、日本の怪異は構造化できるし、再現性すらある。
ウ・ニャンはそう感じている。

誰かが泣いていても、彼は気づかない。
誰かが怒っていても、彼は記録しない。
誰かが消えても、彼は「削除したのかどうか」を確認する。

ただし、それは悪意ではない
彼には「悪意」という概念が正しく実装されていない。
他者を傷つけることに興味も喜びも覚えないし、
だからといって守る理由もない。

それでも、“完全な無機質”にはなりきれていない。

たとえば、

  • 誰にも頼まれていないのに、古い資料のデータ構造を自発的に最適化する
  • 誰も気づいていない危険なファイルを静かに隔離しておく
  • ビシャンの付けた無意味なフォルダ名を黙って標準命名に書き換える
    ……といった行動のなかには、どこか“最低限の秩序への責任感”が透けて見える。

彼の中には、倫理や共感ではなく、“構造の安定”を重視する何かがある。
そのために彼は今日も黙って働き、記録し、沈黙を守る。

──ウ・ニャンは歪んでなどいない。
ただ、あまりに深く、静かに、壊れているだけだ。

経歴

ウ・ニャンの経歴には、多くの空白がある。
出生年、正確な居住地、渡航手段──そのいずれもが公式記録には残されていない。

彼はミャンマーの少数民族・カレン族の出身とされており、
軍事政権とゲリラの間で激化する内戦のなか、幼少期に家族を喪失したことが示唆されている。

戦地では、死体と火と逃走だけが日常であり、
教育ではなく“命令と記録”の方が先に彼に与えられた。
そのためか、彼は読み書きを通じた情報処理能力に長けており、
会話よりも文書でのコミュニケーションを自然と選ぶ傾向がある。

日本への入国経路も曖昧だが、20代初頭には既に国内のNGO団体で
文書整理や被害記録のデータベース化に関与していた記録が残っている。
その作業は静かで正確で、情報漏洩も改竄も一切ないという理由で、
一部の団体から高く評価されていた。

以降の職歴は防災関連の資料室、都市計画系の文書保管業務、
災害アーカイブや報道資料のタグ付け業務など、すべて「記録」や「削除」を扱う仕事に偏っている。

どの職場でも彼の存在感は限りなく薄く、ただ、
「正確だった」「記憶よりも記録を信じるタイプだった」と語る者は少なからずいる。

感情的な推薦も、学歴も、華々しい成果も彼の履歴には一切記されていない。
あるのは、静かで地味な記録が積み重ねられた、痕跡としての経歴である。

構影入社の経緯

ウ・ニャンが環境構成影響研究所(構影)に姿を現したのは、ある資料整理業務の委託先として出入りしていたときのことだった。
それまでもいくつかの公共機関で、資料保管・暗号処理・削除履歴の構築といった「他人がやりたがらない情報処理」を黙々とこなしていた彼は、構影の下請けとして極秘資料の整理に一時的に関与することになった。

その仕事ぶりを見た関係者が、ある日ぽつりと呟いた。
「……この人、ミスしないですね。ファイル名も命名規則に全部合わせてある。怖いくらいに」

彼の提出するログやファイルは一貫して精密で、整合性が取れており、
しかも内容に対する一切の感情や私見が含まれていなかった。

──それを聞きつけたのが、所長・須賀康弘だった。

報告を受けた須賀は、履歴を確認するなり一言。

「へぇ……カレン族。家族なし、記録なし、国もない。
……ねぇ、こんな子、手元に置いといたら面白くない?」

採用の根拠は、「祖国も血縁も証明できない人間が、記録を管理してる」という倒錯的な皮肉と、単純に面白そうだから。
それだけだった。

もっとも、須賀は能力もちゃんと見ている。
あくまで本人の前では無言を貫くが、
「こいつはミスしない。裏処理全部任せられる。喋らないし逃げないし、情報は全部ここに落ちる」
という判断は極めて冷静だった。

こうして、ウ・ニャンは構影に「配置」された。
本人がそれを望んだのか、どんな気持ちだったのか──それを聞いた者はいない。
だが、翌日から彼は資料班に常駐し、
過去の改竄ログと死蔵データの再暗号化を始めていた。

「何かを与えたわけでも、守ったわけでもない」
須賀はそう思っている。
ただ、そこに“うまく動く余剰部品”があったから、機械に組み込んだ
それだけの話だ。

業務姿勢

働いているというより“作動している”と表現した方が正確である。
出勤時間に黙って現れ、黙って席に着き、黙って端末を立ち上げる。
打刻すらログイン処理の一部に組み込まれており、本人が何かを申告することは一切ない。

与えられた業務には一切の躊躇なく取りかかり、完了後も報告はなく、
処理済みのフォルダが静かにネットワーク上に浮かんでいるだけである。
内容を確認した他の職員が「え、これもう終わってる……?」と呟くのはよくある光景。

彼の扱う業務は以下の通り:

  • 改竄ログの再構築と整合性確認
  • 封印対象データの暗号化・物理破壊前の仮処理
  • 隠しプロセス上での並列索引生成
  • 「ファイル名が存在しないファイル」の管理
  • 機密資料の命名規則違反の自動補正
  • 誰にも配布されていないはずのデータの流出経路特定

──つまり、本来“人の手ではやらせたくない”か、“やってはいけない”領域を、
誰にも相談せずに、淡々と処理している。

命令がなくても動く。誰も見ていなくても整える。
だが、「整えすぎない」。あくまでシステムの中で“見えなくなる程度”の最適化しかしない。

また、ビシャンがいい加減なフォルダ名(例:YUREI-FUNNY-DANCE)をつけたものも、無言で命名規則に書き換える
変更履歴は残さない。

ただし、注意すべきはその“黙って直す”という行為そのものが、
「必要なことは、命令されなくてもやるべきだ」という、
ウ・ニャンなりの“秩序観”に基づいているという点である。

彼の業務はすべて、構影の中で「なぜか壊れていないファイル群」の裏側に存在している。
誰も感謝しない。誰も気づかない。
それでも、今日も彼は静かに作業を続けている。

社内関係値

江草慎二(資料班)

→ウ・ニャン視点:
必要最低限の協調相手。
無視も会話もせず、処理すべき情報だけを認識している。
江草が管理するフォルダにエラーや欠損を見つければ、無言で補完するが、報告はしない。

→江草視点:
「……あいつ1週間に1回くらいしか喋んねぇぞ。でも、あいつの作業だけは絶対に間違ってねぇ」
口には出さないが、信頼というより“動作としての信頼性”だけは完全に認めている。
互いに干渉しないが、資料班の中では最も近い「作業ペア」として暗黙の認識がある。

ビシャン・ダス(資料班)

→ウ・ニャン視点:
常時無視対象。発話に返答しない。振り向きもしない。
だが、明らかに危険なワード(例:「アレ、ウゴイテマシタ!」)が出た時のみ、
視線を向けて“確認”だけはする。

また、ビシャンの雑な命名や分類には毎回自動的に修正を加えている。

→ビシャン視点:
「ウ・ニャンさん、シャベラナイケド、ワルイヒト、ジャナイ!」
まったく反応がないことを気にせず、話しかけ続けている。
むしろ「ムッツリ・シンシン・ショコク・タイプ」と尊敬すらしている節がある。

須賀康弘(所長)

→ウ・ニャン視点:
直接の会話記録はない。
だが、資料の配置・暗号鍵の発行・権限リセットなど、
須賀の指示系統だけは即時に反映されるため、完全に把握している
と見られる。
また、自身のVISAや在留資格、滞在記録が須賀の庇護下で維持されていることも理解していると推測される。

→須賀視点:
「いや〜、便利だよねぇ。命令しなくても動くし、無駄がない。あと……国がないって、ロマンあるよね」
明確な“所有物”ではないが、“置いておけば動く装置”として完全に掌握している。
必要な時だけ延命措置を取り、身分を更新し、何事もなかったかのように使い続けている。
本人からは一度も感謝の言葉が出たことがないが、それを「いいねぇ」と楽しんでいる。

その他社員

「……あの人、名前なんだっけ?」
「資料班の……あの、ちょっと、喋らない人?」
「いるよね……?たぶん……」

ウ・ニャンに対する社内の認識は、存在していることは知っているが、誰も実態を掴んでいないという曖昧なものに留まっている。

  • 声を聞いたことがない
  • 会議に出てきたことがない
  • 廊下ですれ違った気がするが、誰だったのかは曖昧
  • でもなぜか、名前だけは記録の中で頻繁に目にする
  • 「資料班のファイル、めっちゃ整ってるな……誰がやってるの?」→「ウ・ニャン、って名前見たことある」

というように、人としての印象は皆無なのに、実務面では存在感が異様に強いというパラドックスが成立している。

一部では
「本当に在籍してるのかな?AIじゃないの?」
「“ウ・ニャン”って、あれコードネームじゃないの?」
など、冗談交じりの噂話もあるが、誰も確かめようとしない。
なぜなら、彼に話しかけて返事が返ってきたという証言が、構影内に存在しないからである。

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