第1章 時間資源と生体ロック

架空の魔法世界

これまでに学んだこと

小学校では、魔法について次のように学びました。

  • 古い物ほど、多くの魔法資源を持つこと
  • 生きている生物は、他者の魔法資源にできないこと
  • 魔法に使用した資源は、発動の成否にかかわらず失われること

これらは、魔法を安全に扱うための大切な基本です。

しかし、「古い物」とは、ただ長い年月が過ぎた物を指すのでしょうか。 また、生きている身体は、どのような仕組みによって魔法から守られているのでしょうか。

この章では、小学校で学んだ内容を、 時間資源生体ロックという言葉を使って、 より正確に学びます。

この章で学ぶこと

  • 時間資源がどのように蓄積されるか
  • 生体ロックが生物をどのように守っているか
  • 物質が魔法資源として使用できるようになる条件
  • 魔法資源を使用するときに注意すべきこと

1 魔法を成立させるもの

魔法は、願いや感情だけによって起こる現象ではありません。

魔法を成立させるためには、主に次の三つが必要です。

  • 魔法へ変換できる資源
  • 起こしたい物質や現象についての知識
  • 必要となる資源量の見積もり

このうち、魔法へ変換できる資源を 時間資源といいます。

時間資源は、人間や動物だけが持つものではありません。 植物、菌類、微生物などを含む、すべての生物に同じ法則が適用されます。

種族、知能、身分、善悪、信仰などによって、 時間資源の法則が変化することはありません。

2 時間資源とは何か

生物の身体をつくる物質は、 生きた身体と物理的につながっている間、 少しずつ魔法へ変換できる価値を蓄積します。

この価値が、時間資源です。

時間資源のおおよその量は、次の二つによって決まります。

  • その物質が生きた身体とつながっていた時間
  • その物質の質量

時間資源量 ≒ 接触時間 × 質量

長い期間にわたって身体の一部であり続けた、 重い物質ほど、多くの時間資源を持つ傾向があります。

たとえば、長く生きた大きな動物の骨や、 樹齢の高い大木の太い幹は、 多くの時間資源を持つ可能性があります。

「古い物ほど価値が高い」の正しい意味

小学校では、「古い物ほど多くの魔法資源を持つ」と学びました。

しかし、ただ長い年月が過ぎただけでは、 時間資源は蓄積されません。

地面に百年間置かれていた石は、 その石が古いという理由だけで時間資源を持つわけではありません。

一方、生物の身体に長期間埋め込まれ、 身体とつながり続けていた金属などは、 接触していた期間に応じて時間資源を蓄積します。

つまり、重要なのは物の年齢ではなく、 生きた身体とつながっていた時間です。

3 身体のすべてが同じ時間を持つわけではない

一つの生物の身体であっても、 すべての部分が同じ量の時間資源を持つとは限りません。

生物の身体では、成長や新陳代謝によって、 細胞や組織がつくられたり、入れ替わったりしています。

長期間残り続けている骨や歯と、 比較的新しくつくられた皮膚や脂肪では、 身体とつながっていた時間が異なります。

そのため、同じ年齢、同じ体重の生物であっても、 身体全体が持つ時間資源量は同じとは限りません。

年齢や重さだけで資源量を決めつけず、 どのような物質が、どのくらいの期間残っていたかを考える必要があります。

4 身体から切り離されるとどうなるか

物質が生きた身体から完全に切り離されると、 それまでに蓄積していた接触時間が固定されます。

切り離されたあと、その物質の古い接触時間が そのまま増え続けることはありません。

たとえば、十年間身体に取り付けられていた物体を外した場合、 その物体が最初に蓄積した接触時間は十年間で固定されます。

後日、同じ物体を再び身体へ取り付けても、 以前の十年間の続きとして数えられるわけではありません。

  • 取り外す前の十年間
  • 再び取り付けた後の新しい接触期間

この二つは、別の履歴として扱われます。

5 生きた身体を守る生体ロック

生きている生物が蓄積した時間資源は、 その生物自身に属しています。

他者は、生きている生物の身体を 外部の魔法資源として直接使用することができません。

この仕組みを生体ロックといいます。

生体ロックは、人間だけにあるものではありません。

  • 動物
  • 植物
  • 菌類
  • 微生物
  • その他の生物

これらすべてに、同じように生体ロックが働きます。

そのため、生きている人間や動物を、 他者がそのまま魔法資源へ変換することはできません。 生えている木を、そのまま外部資源として消費することもできません。

生体ロックは、国や社会が定めた法律ではありません。 生命そのものに備わった自然法則です。

所有権、契約、許可、身分などによって、 生体ロックが別の人物へ移ることもありません。

6 生体ロックが外れるとき

生体ロックは、生物全体から一度に外れるとは限りません。

生命としてのつながりを失った部分について、 生体ロックが解除されます。

代表的な例には、次のものがあります。

  • 生物が死亡したとき
  • 身体の一部が完全に切り離されたとき
  • 毛、歯、角、鱗、葉などが自然に抜け落ちたとき
  • 手術や伐採によって組織が取り除かれたとき

たとえば、生きている木から枝を一本切り離した場合、 切り離された枝だけが外部資源になります。

残った幹や根には、引き続き生体ロックが働きます。

切り離された物質は、 その時点までに蓄積していた時間を固定した、 独立した魔法資源として扱われます。

7 自分自身の身体と生体ロック

生物は、自分自身の生体ロックに属する身体を、 自ら魔法資源として指定することができます。

しかし、身体が物理的につながっている間、 魔法はその身体全体を一続きの対象として扱います。

たとえば、自分の腕だけを資源として使用するつもりでも、 腕が身体につながったままであれば、 腕だけを独立した資源として指定することはできません。

身体全体が一つの対象として認識され、 全身が消費される危険があります。

安全上の注意
自分や他人の身体を変換対象として指定する術式を、 興味や遊びで試してはいけません。
身体を対象とする術式は、必ず資格を持つ術者や教師の管理下で扱います。

8 魔法が認識する変換単位

魔法は、術者が一つの対象として指定した物体を、 一つの変換単位として認識します。

変換単位として指定された物体は、 必要な部分だけが使用されるわけではありません。

たとえば、一本の枝を変換単位として指定した場合、 その枝が持つ時間資源はすべて投入されます。

枝が持つ資源の一割だけを使い、 残りの九割を枝として返してもらうことはできません。

少量の資源だけを使用したい場合は、 魔法を発動する前に、対象を適切な大きさへ分けておく必要があります。

そのため、魔法を使用する前には、 次のような準備が重要になります。

  • 切断する
  • 分解する
  • 粉砕する
  • 計量する
  • 必要な部分を選別する

魔法の発動だけでなく、 発動前の準備も安全な魔法利用の一部です。

9 投入した資源はすべて失われる

魔法を発動すると、 指定した変換単位は結果にかかわらずすべて消費されます。

魔法が成功した場合だけでなく、 不発に終わった場合も、投入した資源は元の物体へ戻りません。

必要量より多くの資源を投入した場合も、 余った分が返却されることはありません。

魔法には、釣銭や残高という仕組みはありません。

資源が不足していた場合

投入した時間資源が必要量に達していなかった場合、 魔法は不発となります。

目的とした物質や現象は、まったく発生しません。

不足している量に合わせて、 小さな魔法へ自動的に変更されることもありません。

投入した資源だけが、すべて失われます。

資源を多く入れすぎた場合

投入した時間資源が必要量を上回っていた場合、 術者が指定した魔法は、その指定どおりに成立します。

しかし、余った資源によって、 威力、範囲、持続時間、生成量などが 自動的に増加することはありません。

余分な資源も、ほかの魔法へ回すことはできず、 すべて消費されます。

投入した資源量魔法の結果投入した資源
必要量より少ない不発すべて失われる
必要量とほぼ同じ指定どおりに成立するすべて消費される
必要量より多い指定どおりに成立する余った分も失われる

安全で無駄の少ない魔法を行うためには、 資源量を見積もり、適切な大きさの変換単位を準備する必要があります。

10 生命の境界

生体ロックは、人間社会で決められた 「一人」や「一個体」という考え方ではなく、 生物学的なつながりをもとに働きます。

原則として、代謝や栄養の供給を共有し、 生きた組織が物理的につながっている範囲は、 一つの生命系として扱われます。

そのため、次のような生物では、 生体ロックの境界を判断することが難しい場合があります。

  • 臍帯で母体とつながっている胎児
  • 接ぎ木された植物
  • 地下茎によってつながる植物
  • 多くの個体がつながって生きる群体生物
  • 身体の一部を共有する生物

これらの境界については、 現在も魔法生物学や魔法医学で研究が続けられています。

中学校では、まず 生体ロックは生きた身体の連続性を基準に働く ということを覚えておきましょう。

この章のまとめ

  • 時間資源は、生きた身体とつながっていた物質に蓄積される。
  • 時間資源量は、おおよそ接触時間と質量によって決まる。
  • 物質が身体から切り離されると、それまでの接触時間が固定される。
  • 生きた身体は、生体ロックによって他者からの変換を防いでいる。
  • 生体ロックは、死亡、切断、脱落、摘出などによって解除される。
  • 魔法は、指定された物体全体を一つの変換単位として扱う。
  • 投入した資源は、成功、不発、超過にかかわらずすべて失われる。
  • 魔法を安全に使うには、発動前の分割、計量、見積もりが重要である。

確認問題

  1. 時間資源量を決める、おもな二つの要素を答えなさい。
  2. 百年間地面に置かれていた石が、古いという理由だけでは 多くの時間資源を持たないのはなぜですか。
  3. 生体ロックとは、どのような仕組みですか。
  4. 生きた木から枝を切り離した場合、 枝と残された木の生体ロックはそれぞれどうなりますか。
  5. 一度身体から外した物体を再び取り付けた場合、 接触時間はどのように数えられますか。
  6. 必要量より少ない資源で魔法を発動した場合、 魔法と投入資源はどうなりますか。
  7. 必要量より多い資源を投入しても、 魔法の威力が自動的に増加しないのはなぜですか。
  8. 魔法を発動する前に、資源を切断したり計量したりする必要がある理由を、 「変換単位」という言葉を使って説明しなさい。

次の章では、術者が起こしたい物質や現象を、 魔法へどのように伝えるのかを学びます。

第2章 術式と記述法

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