第3章 現象系・変換系・生成系

架空の魔法世界

これまでに学んだこと

第1章では、魔法を動かすために使われる 時間資源について学びました。

第2章では、起こしたい物質や現象を魔法へ伝える 術式について学びました。

同じ時間資源を使い、同じような結果を目指す場合でも、 術式の組み立て方によって、魔法資源の使われ方は異なります。

たとえば、水を手に入れたいとします。

  • 氷を温めて水にする
  • 別の物質を水へ作り替える
  • 時間資源から新しい水をつくる

どの方法でも、最終的には水を得られます。 しかし、この三つは魔法の仕組みが異なります。

この章では、魔法を 現象系変換系生成系 の三つに分けて学びます。

この章で学ぶこと

  • 現象系・変換系・生成系の違い
  • 同じ目的でも、複数の方法があること
  • 三つの系統で、必要な時間資源量が異なる理由
  • 資源効率と術式の難しさの違い
  • 変換系で母材を選ぶ必要がある理由

1 魔法を三つに分類する

魔法による作用は、 既存の物質をどのように扱うかによって、 大きく三つに分類されます。

分類既存の物質の扱い
現象系物質の種類を変えず、動きや状態を変える加熱する、動かす、光を発生させる
変換系すでにある物質を、別の物質へ作り替える石を金属へ変える
生成系材料を使わず、時間資源から新しい物質をつくる水や金属を新しく生成する

三つの分類は、火、水、風などの種類によって分けるものではありません。

同じ水を扱う魔法でも、 水を移動させれば現象系、 別の物質を水へ作り替えれば変換系、 新しい水をつくれば生成系となります。

魔法の分類は、何をつくったかではなく、 どのような方法で結果を生じさせたかによって決まる。

2 現象系

現象系とは、 新しい物質をつくることなく、 すでに存在する物質や空間へ変化を起こす魔法です。

現象系には、次のような魔法があります。

  • 物体を動かす
  • 物体を持ち上げる
  • 熱を加える
  • 光を発生させる
  • 圧力を加える
  • 空気や水を集める

たとえば氷を水にしたい場合、 氷を別の物質へ作り替える必要はありません。

氷へ熱を加えれば、 物質の種類を変えずに水へ戻すことができます。 これは現象系です。

現象系の資源効率

現象系は、三つの分類の中で、 一般に最も少ない時間資源で大きな結果を得やすい魔法です。

物質そのものを一からつくったり、 別の物質へ組み替えたりする必要がないためです。

水が必要な場合も、 新しい水を生成するより、 次のような方法を使うほうが効率的です。

  • 氷を溶かす
  • 地下水を地上へ移動させる
  • 空気中の水分を集める
  • 容器の中の水を必要な場所へ運ぶ

すでに存在する物質を利用できる場合、 まず現象系で目的を達成できないかを考えることが基本です。

現象系の結果は続くとは限らない

現象系で起こされた変化は、 魔法が終わったあとも必ず続くわけではありません。

持ち上げた物体は、支えがなければ落下します。 温めた物体も、周囲へ熱を失えば冷えていきます。

そのため、結果を長く保ちたい場合には、 次のどちらかが必要です。

  • 魔法による操作を続ける
  • 物理的に安定した状態へ移す

たとえば岩を空中に浮かせ続けるには、 継続して力を加えなければなりません。

しかし岩を台の上へ移動させれば、 魔法を止めても岩はその場に残ります。

3 変換系

変換系とは、 すでに存在する物質を材料として使い、 別の物質へ作り替える魔法です。

変換に使われる元の物質を 母材といいます。

たとえば、次のような魔法が変換系です。

  • 石を金属へ変える
  • 木材を別の素材へ変える
  • 不純物を含む鉱石を、純度の高い金属へ変える
  • ある液体を、別の液体へ作り替える

変換系では、完成した物質の一部を、 すでに存在する母材から得ることができます。

そのため、同じ量の物質を得る場合、 何もないところからつくる生成系よりも、 必要な時間資源を少なくできることがあります。

変換系は計算が複雑になる

変換系では、完成させたい物質だけでなく、 使用する母材についても調べる必要があります。

術者は、おもに次のような点を考えます。

  • 母材がどのような物質でできているか
  • 母材の質量
  • 母材の体積
  • 完成物の質量と体積
  • 母材に含まれる空洞や不純物
  • 変換の途中で必要になる時間資源量

自然の石や木材は、どれも完全に同じではありません。

同じ大きさの石でも、 内部に空洞があったり、 別の物質が混ざっていたりすることがあります。

そのため、同じ術式を使っても、 母材によって得られる結果が変わることがあります。

変換系は、資源を節約しやすい代わりに、 母材を正しく調べる必要がある。

4 生成系

生成系とは、 母材を使わず、 時間資源から新しい物質を成立させる魔法です。

たとえば、何もない容器の中へ水を生成したり、 材料を使わずに金属片をつくったりする魔法がこれに当たります。

生成系では、変換系のように 母材の性質を調べる必要がありません。

術者がおもに指定するのは、次のような情報です。

  • 生成する物質の種類
  • 生成する量
  • 形や大きさ
  • 温度
  • 純度
  • 生成する場所

完成させたい物質について考えればよいため、 必要資源の見積もりは、 変換系より単純になる場合があります。

生成系は多くの資源を使う

生成系では、完成物を構成する物質を 一から成立させなければなりません。

そのため、三つの分類の中では、 一般に最も多くの時間資源を消費します。

生成系は、次のような場合に役立ちます。

  • 適切な母材が近くにない
  • 母材の状態を調べる時間がない
  • 少量の物質を、確実な組成で必要としている
  • ほかの方法では目的を達成できない

しかし、平常時の大量生産では、 必要な時間資源が多すぎるため、 生成系が最初に選ばれることは多くありません。

コラム 生成された物質は「0年物質」である

生成系では、時間資源を使って、 それまで存在しなかった新しい物質をつくります。

このとき、生成された物質は、 生成された瞬間を始まりとする新しい物質 として扱われます。

これを、一般に 0年物質 と呼びます。

生成に使った時間資源が、 何十年、何百年分の価値を持っていたとしても、 その時間が生成物へ引き継がれることはありません。

たとえば、樹齢百年の木が持つ時間資源を使って 金属を生成したとしても、 生成された金属が「百年分の時間資源」を持つわけではありません。

その金属は、生体との接触履歴を持たない 0年物質として新しく成立します。

生成された物質が、のちに生きた身体の一部として 物理的につながった場合は、 その時点から新しい接触時間を蓄積します。

しかし、生体とつながらずに保管されているだけでは、 時間資源は蓄積されません。

生成物は、投入した資源の時間を受け継がない。

そのため、生成した物質をすぐに時間資源として使っても、 投入した資源を取り戻すことはできません。

5 同じ目的を三つの方法で考える

三つの分類を見分けるときは、 最終的な結果だけを見るのではなく、 その結果へ至る方法を考えます。

水を得る場合

方法分類理由
氷を溶かす現象系物質の種類を変えず、状態だけを変えるため
別の物質を水へ作り替える変換系母材を別の物質へ変えるため
時間資源から水をつくる生成系母材を使わず、新しい物質を成立させるため

明かりを得る場合

方法分類
周囲へ光を発生させる現象系
木材を燃えやすい物質へ変換し、火をつける変換系と現象系
燃料を新しく生成し、火をつける生成系と現象系

一つの目的を達成するために、 複数の系統を組み合わせる場合もあります。

その場合は、術式の中に 現象系、変換系、生成系の処理がそれぞれ含まれています。

6 資源効率

同じ結果を目指す場合、 必要となる時間資源の量は、 一般に次の順で少なくなります。

現象系 > 変換系 > 生成系

この式では、左にあるものほど 資源効率が高いことを表しています。

  • 現象系は、すでにある物質をそのまま利用する
  • 変換系は、母材を利用しながら不足する部分を補う
  • 生成系は、完成物を一から成立させる

そのため、利用できる物質が周囲にある場合は、 現象系や変換系を使うほうが、 時間資源を節約しやすくなります。

ただし、必ずこの順で術式を選ばなければならないわけではありません。

母材を調べる時間や、 必要な道具、 事故の危険なども考えて、 最も安全で適切な方法を選びます。

7 資源効率と計算の簡単さは同じではない

資源効率がよい魔法ほど、 術式が簡単であるとは限りません。

特に変換系は、 生成系より少ない資源で物質を得やすい一方、 母材と完成物の両方を計算しなければなりません。

分類資源効率術式を組み立てるときの特徴
現象系高い物質をつくらないが、複雑な動きや長時間の維持では計算が増える
変換系比較的高い母材と完成物の違いを計算する必要がある
生成系低い完成物だけを考えればよいが、多くの時間資源が必要になる

生成系は、 資源を多く使う代わりに、考える対象が比較的少ない方法 といえます。

変換系は、 資源を節約できる代わりに、計算が複雑な方法 といえます。

8 変換系と質量・体積

変換系では、 母材と完成物の質量だけでなく、 それぞれの体積も重要です。

同じ一キログラムでも、 物質によって占める空間の大きさは異なります。

たとえば、綿一キログラムは大きな体積を占めますが、 金属一キログラムは、より小さな体積に収まります。

綿を金属へ変換する場合、 物質を狭い範囲へ集めながら つくり替えなければなりません。

この体積差を処理するためにも、 時間資源が使われます。

そのため、変換前と変換後の体積が大きく異なるほど、 完成物をつくるために使える資源が減りやすくなります。

母材に魔法的な相性があるとは限らない

ある母材が変換に適している理由は、 特別な魔法属性を持っているからとは限りません。

たとえば、石や金属片が重い金属の母材として使いやすいのは、 体積に対して質量が大きく、 変換後の体積との差が小さくなりやすいためです。

反対に、綿、乾いた草、軽い木材などは、 体積に対して質量が小さいため、 重い物質への変換では効率が悪くなりやすい傾向があります。

母材を選ぶときは、 見た目や伝承だけではなく、 実際の質量、体積、内部の状態を調べる必要があります。

コラム 投入資源と見積もり

変換系では、母材の性質だけを調べればよいわけではありません。

術者は、魔法を動かすために投入する 時間資源の価値も見積もる必要があります。

時間資源として指定された物体は、 一つの変換単位としてすべて消費されます。

必要量より少なければ魔法は不発となり、 投入した資源だけが失われます。

反対に、必要量より多く投入しても、 余った資源が返ってくることはありません。

見積もり結果
必要量より少ない魔法は不発となり、資源はすべて失われる
必要量とほぼ同じ無駄を少なくして魔法を成立させられる
必要量より多い魔法は成立するが、余った資源も失われる

時間資源の価値は、 資源となる物体の見た目だけでは正確に判断できません。

たとえば死体を時間資源として使う場合、 年齢や体重が同じであっても、 実際の資源価値は同じとは限りません。

骨や歯など、長い期間身体に残っていた組織が多い個体は、 高い資源価値を持つことがあります。

一方、体格が大きくても、 重量の多くが比較的新しくつくられた筋肉や脂肪であれば、 見た目ほど多くの時間資源を持たない場合があります。

過去のけが、歯の欠損、骨格、成長のしかたなども、 資源価値へ影響します。

変換系の術者は、次の三つを同時に考えなければなりません。

  • 母材が、完成物へどれほど変換しやすいか
  • 投入する時間資源が、どれほどの価値を持つか
  • 目的の量を得るために、どの程度の資源が必要か

この見積もりには、知識だけでなく、 観察、測定、経験が必要です。

変換術者は、単に物質を作り替える術者ではない。
母材と時間資源の両方を見積もる、熟練した技術者でもある。

経験のある変換術者ほど、 少ない資源で安定した結果を得やすくなります。

9 魔法の分類を知る意味

魔法を三つに分類する目的は、 名前を覚えることだけではありません。

分類を考えることで、 次のことを予想できるようになります。

  • どのような材料が必要か
  • 時間資源をどの程度使うか
  • どのような計算が必要か
  • 結果が一時的か、物質として残るか
  • どのような失敗が起こりやすいか

同じ目的を達成できる術式が複数ある場合、 術者は、資源効率だけで方法を決めてはいけません。

母材の有無、計算の難しさ、 発動までに使える時間、 周囲への危険などを比べる必要があります。

最も資源効率のよい魔法が、 必ずしも最も安全で適切な魔法とは限らない。

10 魔法を安全に選ぶために

実際に魔法を使うときは、 目的だけでなく、方法も確認します。

  • 周囲に利用できる物質があるか
  • 現象系だけで目的を達成できないか
  • 変換系を使う場合、母材の状態を確認できているか
  • 生成系を使うだけの時間資源があるか
  • 必要な計算を自分で正しく行えるか
  • 魔法を止めたあと、結果がどう変化するか

安全上の注意
分類を判断できない術式や、 必要資源量を見積もれない術式を、 自分だけの判断で使用してはいけません。
特に変換系は、母材の内部状態によって結果が変わるため、 教師や資格を持つ術者の指示に従ってください。

この章のまとめ

  • 魔法は、既存の物質の扱い方によって、現象系・変換系・生成系に分けられる。
  • 現象系は、新しい物質をつくらず、物体の動きや状態を変える。
  • 変換系は、母材となる物質を別の物質へ作り替える。
  • 生成系は、母材を使わず、時間資源から新しい物質をつくる。
  • 同じ物質を得る場合でも、使った方法によって分類が変わる。
  • 資源効率は、一般に現象系、変換系、生成系の順に高い。
  • 資源効率の高さと、術式の計算の簡単さは一致しない。
  • 変換系では、母材と完成物の質量、体積、内部状態を考える必要がある。
  • 最も効率のよい方法ではなく、安全性や状況を含めて術式を選ぶことが重要である。

確認問題

  1. 現象系・変換系・生成系は、 何を基準に分類されますか。
  2. 氷を溶かして水を得る魔法が、 現象系に分類される理由を説明しなさい。
  3. 変換系における母材とは何ですか。
  4. 生成系が変換系よりも多くの時間資源を必要とするのはなぜですか。
  5. 変換系が生成系より計算の複雑な魔法になりやすい理由を説明しなさい。
  6. 同じ水を得るという目的を、 現象系・変換系・生成系の三つの方法で表しなさい。
  7. 綿を重い金属へ変換するとき、 石や金属片を母材にする場合より効率が悪くなりやすいのはなぜですか。
  8. 資源効率の最も高い術式が、 必ずしも最も適切な術式ではない理由を答えなさい。

次の章では、一人では処理できない複雑な術式を、 道具や複数の術者によって成立させる仕組みを学びます。

第4章 大規模術式と外部計算

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