第16話 猫耳美少年にパジャマを買ってもらいました!

ロロの次の好きなところは、寝巻店だった。

店先には、色も厚さも違う寝巻きがずらりと並んでいる。

「ここ、僕のお気に入りにゃ~♡」

「寝巻きにお気に入りの店とかあるの?」

「あるにゃ。寝る時に着るものは大事にゃ~」

一日の大半を寝て過ごすロロが言うと、妙な説得力があった。

店へ入るなり、ロロは並んだ寝巻きへ触れ始めた。

袖を撫で、襟元をつまみ、気になったものは頬へ当てる。

「こっちはちょっと硬いにゃ」

「そうか?」

俺も触ってみる。

普通の布だった。

ロロは隣の寝巻きを撫でた。

「こっちの方が触り心地いいにゃ♡」

触り比べる。

やはり、普通の布だった。

「同じじゃない?」

「全然違うにゃ~」

「どこが?」

「こっちは、すべすべして、ふわふわしてるにゃ」

「両立するの、それ」

「するにゃ♡」

ロロは俺の手を取り、二枚の袖へ順番に触れさせた。

分からない。

前世でも、寝る時に着ていたのはよれたジャージかスウェットだった。寝巻きの良し悪しなど、一度も考えたことがない。

最初の方がわずかに硬いような気もしたが、言われたからそう思うだけかもしれない。

「たっくんは触るの下手にゃ~」

「布を触るのに上手いも下手もあるのかよ」

「あるにゃ。僕は上手にゃ♡」

それは、ただ猫だからではないだろうか。

ロロは次々と寝巻きを見て回った。

俺はその後ろをついて歩く。

寝巻きなんて、寝る時に身体を覆えれば何でもいい。

こちらの世界へ来てからは買う暇さえなく、普段着のまま寝ていた。

触り心地がどうだろうと、眠くなれば寝られる。

そう思っていたのだが、ロロは一着の前で足を止めた。

「ドラゴンさんにゃ~♡」

胸元に、可愛らしく図案化されたドラゴンのワッペンがついていた。

翼を広げ、楽しそうに笑っている。

どう見ても子供向けだった。

「かわいいにゃ~♡」

「可愛いけど、俺には関係ないな」

「たっくん、これにするにゃ」

「何を?」

「パジャマにゃ♡」

「俺が着るの!?」

ロロは寝巻きを棚から取り、俺の身体へ合わせた。

「大きさもちょうどいいにゃ~」

「いやいや。俺、成人男性だぞ」

「知ってるにゃ」

「これを着る年齢じゃないだろ」

「ドラゴンさんは何歳でもかわいいにゃ♡」

そういう問題ではない。

返そうとしたが、ロロは寝巻きを抱えたまま会計へ向かった。

「待て。俺は買わないぞ」

「僕が買うにゃ」

「何でお前が俺のパジャマを買うんだよ」

「たっくんに着てほしくなったからにゃ~♡」

欲しくなったからではなく、着せたくなったから買うらしい。

俺が止める前に、ロロは代金を払った。

包まれた寝巻きを、そのまま俺へ差し出す。

「はい、たっくんのにゃ♡」

「本当にくれるの?」

「お家で着るにゃ~♡」

「外では絶対に着ないからな」

「パジャマはお外で着ないにゃ」

「そうじゃなくて」

「パジャマ着たら、僕のこと思い出すようになるにゃ♡」

ロロは満足そうに目を細めた。

男から寝巻きを贈られ、着るたびに自分を思い出せと言われている。

相手が女なら、かなり意味深な場面だったかもしれない。

だが、ロロはオスだ。

深く考える必要はない。

「……ありがと」

「たっくん、ドラゴンさん似合うにゃ~♡」

「まだ着てないだろ」

「絶対似合うにゃ」

根拠のない断言だった。

そもそも俺は、この世界で寝巻きを一着も持っていない。

ワッペンは可愛すぎるが、初めてまともな寝巻きが手に入ったのはありがたかった。部屋の中なら誰にも見られない。

俺は包みを抱え、ロロと店を出た。

◇

通りへ戻ると、ロロが急に鼻を動かした。

大きな猫耳が、通りの向こうへ向く。

「いい匂いするにゃ」

「次は食べ物?」

「ドーナッツにゃ~♡」

「さっき昼飯食べたばっかりだろ」

「お昼ご飯とドーナッツは違うにゃ」

ロロは匂いのする方へ歩き始めた。

着いたのは、小さなパン屋だった。

焼いたパンが並ぶ端に、油で揚げた輪形の菓子が置かれている。

砂糖をかけたもの。

果物を載せたもの。

中へクリームを詰めたもの。

いろいろある中から、ロロは何も載っていない一番普通のものを一つ買った。

すぐに食べるのかと思ったが、紙袋へ入れてもらったまま店を出る。

「食べないの?」

「あとで食べるにゃ♡」

「一個だけ?」

「次のお店にもあるにゃ」

少し歩いた先に、今度は菓子店があった。

ロロはそこでも、何も載っていないドーナッツを一つだけ買った。

さらに別の通りへ入り、揚げ菓子を売る店でも一つ。

すべてプレーンだった。

「他の味は買わないの?」

「これが一番おいしいにゃ~♡」

「じゃあ最初の店で何個か買えばよかっただろ」

「お店が違ったら、違うドーナッツにゃ」

「でも全部プレーンじゃん」

「だからいいにゃ♡」

分かるような、分からないような話だった。

ロロは紙袋を増やしながら、上機嫌で歩いている。

「今日は明るいうちに起きれたから、いつも行けなかったお店全部いくにゃ~♡」

「昼まで寝てただろ」

「でも、まだ明るいにゃ」

空を見る。

確かに日は高い。

十時に起きる予定が昼になっただけで、ロロにとっては十分な早起ちらしい。

四軒目でも一つ。

五軒目でも一つ。

紙袋は、見るたびに増えていった。

「ちょっと多くない?」

「余ったらお家でみんなで食べるにゃ~♡」

「そんなに余るなら、買わなきゃいいのに」

「みんなで食べるのも楽しいにゃ♡」

自分で全部食べるつもりはないらしい。

一個ずつの値段は安い。

串肉よりも安いくらいだ。

数は多いが、これくらいなら大した浪費でもないだろう。

たぶん。

◇

次の店へ向かう途中、ロロが大きな建物の前で足を止めた。

「ここも寄るにゃ~♡」

「ここにもドーナッツあるの?」

「僕の働いてるお店にゃ」

入口の看板を見る。

ロロが普段働いている、一般向けの接触店だった。

「休みなのに職場へ来るの?」

「たっくんを見せるにゃ♡」

ロロは慣れた様子で扉を開けた。

店内は、俺が最初に想像していた接触店よりずっと落ち着いていた。

柔らかな長椅子や大きなクッションが並び、客が安心して身体を預けられるようになっている。

ロロがここで、客と話したり、抱き締めたり、一緒に横になったりしているらしい。

「店長いるにゃ~?」

「いますよ」

奥から、女の声がした。

姿を現した女を見て、俺は反射的に一歩下がった。

でかい。

俺よりも明らかに背が高い。

百九十センチくらいあるのではないだろうか。

ただ大きいだけではない。肩も手足もしっかりしていて、服の上からでも筋肉の凹凸が見える。

頭には丸みのある獣耳。

背後には、太く長い尾。

服から覗く首筋や腕の外側の毛皮には、輪の内側へさらに点の入った複雑な模様が並んでいた。

どこからどう見ても、大型の肉食獣だ。

顔立ちは、驚くほど整っていた。

身体の大きさと模様に気を取られなければ、最初に美人だと思ったはずだ。

「おかえりなさい、ロロ。今日はお休みでしたね」

店長は穏やかに微笑んだ。

その口元から、長い犬歯が覗く。

「たっくんを見せに来たにゃ~♡」

ロロはまったく警戒せず、店長へ近づいた。

店長が、手袋をした大きな手をロロの頭へ載せる。

大きな猫耳の間を、ゆっくり撫でた。

「今日はずいぶん早く起きられたのですね」

「たっくんが起こしに来てくれたにゃ♡」

「十時に起こしに来た」

「まあ」

「それから一緒にお昼まで寝たにゃ~♡」

「そこまで言わなくていい」

店長はくすりと笑った。

見た目の迫力に反して、表情も声も優しい。

子供たちを見守る園長先生のようだった。

「初めまして。この店の店長をしています。アレシアです」

「佐藤拓海です」

「ロロがお世話になっています」

「いや、俺の方が世話になってるというか、振り回されてるというか」

「ロロは、好きな方にはたくさん構ってほしくなるのですよ」

店長の手がもう一度動く。

ロロは嬉しそうに目を細め、手袋へ頭を押しつけた。

本当に、よく懐いている。

「せっかくですから、お茶を淹れましょう」

店長は俺たちを卓へ案内した。

茶器を用意する前に、手袋の留め具を外す。

片方ずつ、ゆっくりと手袋を抜いた。

現れたのは、人間と同じ形をした大きな手だった。

ただし、指先だけは違う。

硬く、厚く、湾曲した爪が、すべての指先から伸びている。

飾りではない。

引っかけられれば、簡単に皮膚が裂けそうだった。

俺は、さっきロロを撫でていた手袋を見た。

あれで素手のまま撫でたら、ロロの頭皮まで持っていかれる。

だから手袋をしていたのか。

店長は爪のある指で茶葉を量り、湯を注いだ。

薄い茶器へ触れているのに、爪が当たる音すらしない。

あれだけ危なそうな手を、完全に使いこなしている。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

差し出された茶を受け取る。

店長の言葉には、ロロたちのような獣訛りがなかった。

見た目は、どう見ても顔がいい方の獣人だ。

しかも、かなり獣の特徴が濃い。

それなのに、一度も「にゃ」と言わない。

店長が菓子を取りに席を外したところで、俺はロロへ小声で聞いた。

「店長さん、”にゃ”って…いや、訛らないんだな」

「店長のお父さんは貴族さまにゃ~♡」

「貴族?」

「貴族さまは獣訛りしないにゃ~」

「へ~~~、そんなもんか~」

貴族だから訛らない。

貴族だから大きい。

貴族だから、あんなにお淑やかなのかもしれない。

この世界の貴族へ会ったのは初めてだ。

俺の知っている貴族は、漫画やゲームに出てくるものだけだった。

ファンタジー世界なのだから、現実の貴族と同じだと思う方がおかしい。

「何かありましたか?」

戻ってきた店長が聞いた。

手には、菓子と一緒に大粒の葡萄を載せた皿を持っている。

「いえ。貴族ってすごいんだなって」

店長は一瞬だけ不思議そうな顔をした。

卓へ皿を置くと、葡萄を一粒摘まむ。

指先で厚い皮を剥き、果肉だけを口へ入れた。

そこまでは、俺と同じだった。

だが、噛んだあとも種を出さない。

そのまま飲み込んだ。

「……え?」

ロロを見る。

ロロも葡萄の皮を剥き、果肉を口へ放り込んでいる。

やはり、種を出す様子はない。

俺はロロへ少し顔を寄せた。

「種、出さないの?」

「葡萄の種は喉越しがいいにゃ~♡」

「喉越し……」

ロロはもう次の一粒の皮を剥いていた。

店長も特に気にしていない。

皮は食べないのに、種は飲むらしい。

「お、おう……ここではそれが普通なんだ……」

俺は自分の葡萄の種を、剥いた皮と一緒に皿の端へ出した。

ロロは何も気にせず、次の葡萄へ手を伸ばしている。

「ロロ。ドーナッツもあるのでしょう?」

「これは今食べるおやつにゃ♡」

「そうですか。食べすぎて夕食が入らなくならないようにしてくださいね」

「大丈夫にゃ~」

根拠はなさそうだった。

茶を飲み終えると、店長は再び手袋を着けた。

その手で、帰り際のロロの頭を撫でる。

「残りのお休みも、楽しんでいらっしゃい」

「いっぱい楽しむにゃ~♡」

ロロはふさふさした尾を揺らした。

俺も店長へ頭を下げ、店を出る。

扉が閉まってから、もう一度建物を見上げた。

「いい店長だな」

「店長、優しいにゃ~♡」

ロロは当たり前のことを言うように答えた。

◇

それからも、ロロのドーナッツ巡りは続いた。

俺が何軒目か分からなくなった頃、ようやくロロが足を止めた。

「疲れたにゃ~」

「そりゃ、これだけ歩けば疲れるだろ」

「座ってドーナッツ食べるにゃ♡」

俺たちは市場の広場へ入り、空いていた長椅子へ座った。

ロロは抱えていた紙袋を、隣へ次々と並べていく。

袋を開く。

出てくるのは、どれも何も載っていない輪形の揚げ菓子だった。

焼き色や太さに多少の違いはある。

だが、全部プレーンだ。

「本当に全部同じじゃん」

「違うにゃ~」

ロロは最初の一つを両手で持ち、かじった。

猫耳がぴんと立つ。

「これは、ふわふわにゃ♡」

次の袋を開ける。

一口食べ、今度は目を細めた。

「こっちは、もちもちにゃ~♡」

「さっきの店のも、もちもちじゃなかった?」

「違うもちもちにゃ」

「分からん」

寝巻きの布と同じだった。

俺にはほとんど同じに見えるものでも、ロロには全部違うらしい。

ロロは一つ食べ終えると、次の袋へ手を伸ばした。

「全部食うつもり?」

「食べたいところまで食べるにゃ♡」

「余ったら?」

「お家でみんなで食べるにゃ~」

何も無駄にはならないらしい。

少なくとも、ロロの中では。

俺は隣で、紙袋が一つずつ空になっていくのを眺めた。

数は多い。

だが、一つ一つは安かった。

多分、問題はない。

ロロは三つ目のドーナッツを幸せそうにかじっている。

大きな猫耳が揺れ、頬が緩む。

「そんなに美味い?」

「おいしいにゃ~♡」

「毎日食べるの?」

「今は毎日食べたいにゃ」

今は、という部分が少し気になった。

だが、本人が幸せそうなので、追及する必要もないだろう。

日は少しずつ傾いていた。

市場を歩く人の影が長くなる。

俺の隣では、圧倒的に可愛い猫耳の美少年が、大量のプレーンドーナッツに囲まれている。

異世界らしい光景なのかどうかは、もう分からなかった。

◇

ロロが最後のドーナッツを食べ終えた。

空になった紙袋を畳みながら、空を見上げる。
いつの間にか日は沈みかけ、広場の屋台にも灯りがともり始めていた。

「暗くなってきたにゃ~。接触店行くにゃ♡」

「また接触店!?」

「僕、今日はまだ接触店で遊んでないにゃ~♡」

ロロは当然のように立ち上がった。

「今度はお酒も飲めるにゃ♡たっくんも行くにゃ♡」

酒が飲めて、接触もある。
それなら、今度こそガールズバーのようなものだろう。

獣耳の美人と隣り合って座り、酒を飲みながら少し身体を寄せてもらう。
ようやく、俺が最初に想像していた接触店へ近づいてきた。

「おばあちゃんじゃない?」

「おばあちゃんじゃないにゃ~♡」

よし!!!

まだ金もある。
一軒くらいなら大丈夫だろう。

「行くか!」

「やったにゃ~♡」

◇

店へ入った瞬間、俺の期待は裏切られた。

接触士が、男しかいない。

長椅子に座っているのも、酒を運んでいるのも、客を膝へ乗せているのも、全員男だった。

しかも、揃って顔がいい。

「くそ! また俺のやりたいことと違う!!」

「たっくん、どうしたにゃ?」

「何でもない!」

ロロは店内を見回すと、銀灰色の長い垂れ耳を持つ男へ手を振った。

髪も耳も滑らかな銀灰色で、薄い琥珀色の目をしている。
細身だが、服の上からでも身体が引き締まっているのが分かった。

「今日はラウくんがいいにゃ~♡」

「いらっしゃい、ロロ」

どうやら常連らしい。

ラウと呼ばれた男が長椅子へ座ると、ロロは迷わずその膝へ乗った。

「今日は何を飲むにゃ?」

「甘いお酒にするにゃ~♡」

ラウが後ろからロロの腰へ腕を回す。
もう片方の手で、大きな猫耳の間をゆっくり撫で始めた。

「んにゃ~♡」

ロロは杯を受け取り、満足そうに尻尾を揺らした。

完全にくつろいでいる。

俺が立ったまま眺めていると、別の接触士が近づいてきた。

白い髪に、黒と橙色の細かな斑が入っている。
房毛のある長い垂れ耳にも、同じ模様が散っていた。

こちらも、無駄に顔がいい。
柔らかそうな髪と穏やかな目元のせいで、余計に人当たりがよく見える。

「初めまして。じゃあ、お兄さんも……♡」

男が長椅子へ腰を下ろし、自分の膝を軽く叩いた。

「抱っこはいいです!!!」

「そう?」

「酒だけでお願いします!」

男は少し残念そうに笑った。

「じゃあ、隣で一緒に飲むにゃ♡」

ここで帰るのも負けた気がしたので、仕方なく隣へ座る。

卓には酒と一緒に、小さな房の葡萄が置かれていた。

ロロはラウの膝へ座ったまま一粒ちぎり、口へ放り込む。

そういえば、今日は妙に果物をよく見る。

「お前らって、果物好きなの?」

ロロが葡萄をもう一粒摘まんだ。

「果物嫌いな人なんていないにゃ~♡」

「そういうもん?」

「そういうもんにゃ♡」

ロロは当然のような顔で葡萄を食べた。

皮は出すくせにまた種は飲んでいた。

喉越し、かぁ。

獣人にとってはそういうものらしい。

俺が何を話しても、男は楽しそうに笑ってくれた。
くだらない話でも適当に流さず、質問を返し、自然に続きを引き出してくる。

男の話もちゃんと面白かった。
気づけば俺も何度か声を上げて笑い、杯は思っていたより早く空になっていた。

酒は美味い。
会話も楽しい。
居心地だって、かなりいい。

でも、男なんだよなあ!

しばらくすると、店員が俺たちの席へやってきた。

「そろそろ一時間になりますにゃ。延長しますかにゃ?」

ロロを見る。

銀灰色の男の膝へ収まったまま、耳の後ろを撫でられていた。
かなり名残惜しそうな顔をしている。

「ロロ、どうする?」

「今日は次のお店も行くにゃ~♡」

「まだ行くの?」

「行くにゃ♡」

延長はせず、俺たちは店を出た。

外はすっかり暗くなっていた。
酒で少し温まった身体に、夜の冷たい空気が気持ちいい。

ロロと並んでしばらく歩く。

「楽しかった!」

「よかったにゃ~♡」

「でも、女の子の接触士がよかった!!」

ロロが大きな猫耳を動かした。

「そうだったんだにゃ~」

「最初にいったろ!」

「忘れてたにゃ~♡」

ロロは少し考えるように首を傾けた。

「じゃあ、僕も行きたかったお店があるから、一緒に行くにゃ♡」

「女の子いる?」

「うさぎさん専門らしいにゃ~♡」

「ウサギ!?」

長い耳。
柔らかそうな身体。
可愛らしい顔。

そして、ウサギといえば繁殖力が強い。

絶対エロい。

「行こう!!」

「行くにゃ~♡」

俺は迷わず、ロロの後をついていった。

◇

入口に出ていた料金は、三十分で五千タサルだった。

「高くない!?」

さっきの店は、一時間酒を飲み放題で六千タサルだった。

どう考えても割高だ。

ロロが料金表を覗き込む。

「ちゅーまでしていいみたいにゃ♡」

「え?」

抱擁。
膝枕。
添い寝。
口づけ。

確かに書いてある。

「妥当にゃ♡」

「そうか……?」

三十分で五千タサル。
安くはない。

だが、ここまで来た。
しかも、ウサギ専門店だ。

長い耳を生やした可愛い女の子と抱き合えて、ちゅーまでできる。

「……入るしかない!」

「入るにゃ~♡」

◇

三十分は、驚くほど早く終わった。

柔らかな長耳を持つ女の子に抱き締められ、膝枕をされ、葡萄の食べさせ合いっこ、最後には頬へ軽く口づけまでしてもらった。

五千タサルは高い。

だが、悪くなかった。
いや、かなりよかった。

もう少しだけいてもいいかもしれない。

そう思っていると、接触士がにこやかに料金表を差し出した。

「延長は一時間で二万タサルになりますにゃ」

「二万タサル!?」

さっきより高くなっている。

「さらに二万タサル追加していただければ、奥の個室で包括接触もできますにゃ♡」

奥の個室。

包括接触。

行きたい。

ものすごく行きたい。

だが、金がない。

くそ!

ここまで来たのに、帰るしかないのか!

俺が料金表を睨みながら苦悩している横で、ロロが明るく言った。

「じゃあ僕は延長して、お姉さんとえっちするにゃ~♡」

「お前は残るの!?」

「残るにゃ♡」

迷いが一切ない。

ロロは財布から紙幣を取り出し、当然のように料金を払った。

俺はもう一度、自分の財布の中身を確認した。

足りない。

「……俺は帰る」

言葉にすると、さらに惨めだった。

ロロは女の子へ抱きついたまま、こちらへ手を振った。

「じゃあ今日はばいばいにゃ~♡ また明日にゃ♡」

「お前だけ楽しみやがって……!」

「たっくんも楽しかったにゃ?」

「楽しかったよ!」

だからこそ帰りたくない。

俺は奥の個室へ向かうロロを見送り、一人で店を出た。

◇

ロロと別れ、部屋へ戻った頃には、すっかり夜も更けていた。

ロロに買ってもらった包みを寝台へ置く。

中から、ドラゴンのワッペンがついた寝巻きを取り出した。

改めて見ると、やはり可愛すぎる。

これを選んだロロの顔を思い出した。

『ドラゴンさんにゃ~♡ かわいいにゃ~♡』

これまで寝る時も、普段着のままだった。

この世界で初めて手に入れた寝巻きなのだから、使わない理由はない。

俺は服を脱ぎ、新しい寝巻きへ着替えた。

大きさは、ぴったりだった。

布は柔らかく、確かに普段着よりずっと触り心地がいい。

ロロが選んだだけはある。

問題は、胸元だった。

楽しそうに笑うドラゴンが、俺の胸についている。

殺風景な部屋。

一人暮らしの成人男性。

可愛らしいドラゴンのパジャマ。

かなり悲しい組み合わせだった。

誰に見せるわけでもない。

笑う者もいなければ、似合うと言う者もいない。

部屋は静かだった。

『パジャマ着たら、僕のこと思い出すようになるにゃ♡』

本当に思い出した。

魔法がかかっているわけでもないのに、胸のドラゴンを見るだけで、ロロの声も笑った顔も浮かんでくる。

俺は寝台へ腰を下ろした。

脱いで、いつものように普段着へ戻してもよかった。

だが、布は柔らかくて、着心地がよかった。

俺はそのまま横になり、胸元のドラゴンを指で撫でた。

部屋は、やはり静かだった。

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