第29話 紅眼ってそういう意味かよ!

目を開けた時、部屋が妙に明るかった。

「…………」

寝すぎた。

昨日は仕事を終えて、田中の家で二時間くらい話して、そのあといきなり血まみれの患者を押さえつけて、ニルスの家で鍋を食って酒まで飲んだ。

そりゃ寝る。

でも。

「今、何時……?」

布団から起き上がる。

ニルスはもう起きていた。

台所から、ぐつぐつと何か煮える音がする。

「タックミさん、起きた?」

「起きた。……昼?」

ニルスが窓の外を見る。

「もうすぐ昼ヨ!」

「やっぱり!」

田中には昨日、明日来いと言われた。

朝来いとは言われてない。

だから問題ない。

多分。

「ご飯食べるヨ!」

「食う!」

台所へ行くと、昨日の鍋が火にかかっていた。

残った汁の中に米が入っている。

魚の身も少し残っていた。

野菜も細かくなって混ざっている。

「おじやじゃん」

「オジヤ?」

「俺の国で、こういうの言う」

「オジヤ!」

ニルスが嬉しそうに繰り返した。

器によそってもらう。

湯気が上がる。

昨日より魚の味が汁に出ている気がする。

一口食べた。

「うまっ」

昨日の鍋もうまかったけど、これもうまい。

米が全部出汁を吸っている。

「これ、朝にいいな」

「朝?」

「……昼だけど」

「昼ネ!」

二人で笑った。

結局、俺は二杯食った。

◇

田中の家に着いたのは、完全に昼を過ぎてからだった。

ニルスが戸を叩く。

しばらくして、中から足音がした。

戸が開く。

田中がいた。

眼鏡。

ぼさぼさの髪。

伸びっぱなしの髭。

赤い目。

昨日と同じだ。

ただ。

「……なんか食ってる?」

田中の口が動いている。

手にはフォークまで持っていた。

田中が俺たちを見る。

何か短く言って、そのまま中へ戻っていった。

「入ってイイヨ!」

「自由だな……」

中へ入る。

昨日みたいな甘い煙の匂いはしなかった。

代わりに。

もっと分かりやすく甘い匂いがする。

「…………」

部屋の奥を見た。

箱。

箱。

箱。

テーブルの周りにも、棚の横にも、菓子の箱が積んである。

大きいもの。

小さいもの。

細長いもの。

包装も全部同じじゃない。

その真ん中。

田中の前には、丸いケーキが三つ並んでいた。

全部、箱から出してある。

一つは白いクリームに赤い実が乗っている。

一つは濃い茶色。

もう一つは黄色っぽくて、表面に焼き色がついている。

しかも全部もう切られていた。

田中は白いケーキを一口食べたあと、今度は茶色い方を切っている。

「…………何してんの?」

田中が何か言う。

当然分からない。

ニルスが笑った。

「先生、ケーキ食べてるヨ!」

「それは見りゃ分かるよ!!」

何を聞かれたと思ったんだ。

「なんでこんなにあるんだよ!?」

ニルスが田中に聞く。

田中はケーキを食いながら答えた。

ニルスが俺を見る。

「昨日の人たち、持って来たヨ!」

「昨日の人?」

「腕ケガした人!」

「あ」

昨日、ワイヤーで腕を切った人。

田中が血管まで繋いだ、あの患者。

「なんでケーキ?」

ニルスがきょとんとした。

「先生、昨日お願いしたヨ。いっぱいケーキ持って来てって!」

「…………」

昨日。

処置が全部終わったあと。

田中は患者を運んできた連中に、ものすごく真剣な顔で何か念押ししていた。

俺はてっきり、薬とか、病院とか、今後の注意とか。

そういう大事な話だと思っていた。

「あのクソ真剣な顔で念押ししてたやつケーキだったの!?」

ニルスが吹き出した。

田中が俺を見る。

「いや、お前だよ!」

ニルスが訳す。

田中はむっとした顔で何か言った。

「先生、『頭をたくさん使ったんだ! ケーキを食べたくなるだろ!』って」

「知らねえよ!!」

昨日の血まみれの現場を思い出す。

「お前、途中でしばらく止まってただろ! 何もしてなかったじゃん!」

訳してもらう。

田中の眉が跳ね上がった。

ものすごい勢いで言い返してくる。

「先生、『考えてたんだよ!! 何もしてない時間じゃねえ!!』って!」

「いや分かるけど!!」

「先生、頭いっぱい使ったネ〜」

ニルスまでうんうん頷いている。

「お前はどっちなんだよ!」

田中はもう俺を無視してケーキを食っていた。

改めて箱を見る。

丸いケーキ三つだけじゃない。

ふかふかした焼き菓子。

厚く切った焼き菓子。

固そうなビスケットみたいなもの。

小さいクッキーみたいなもの。

日持ちしそうなものが大量に詰まっている。

「これ、全部一軒の店?」

「違うヨ」

ニルスが箱を見比べる。

それから田中に聞いた。

少しやり取りする。

「大きい街まで買いに行ったって!」

「わざわざ!?」

「この辺、こんなにケーキないヨ。三つ店、回ったって」

「三軒!?」

ニルスはさらに聞く。

「帰り、馬車。ケーキ壊れるから、ゆっくり。護衛もつけたって!」

「そこまでして買ってきたの!?」

カルヴェンでは甘い物が高い。

昨日買い物した時も、砂糖をたっぷり使った菓子なんて売ってなかった。

まして、この辺は都会じゃない。

患者の関係者は、命を助けてもらった礼として本気で田中の要求を叶えたらしい。

田中はそんな苦労を知ってるのか知らないのか、三つ目のケーキにも手を伸ばした。

「……それ、三つどうすんの?」

ニルスが聞く。

田中が答える。

「今日と明日で食べるって!」

「三つ全部!?」

田中が当然みたいに頷いた。

「一人で!?」

また頷く。

「焼き菓子は?」

「これは後で食べるって!」

「そこは保存するんだ……」

生ケーキ三つだけは、今日明日で処理する気らしい。

なんなんだこいつ。

◇

しばらく田中がケーキを食うのを眺めていて。

ふと気づいた。

「そういえば、今日タバコ吸ってないな」

昨日は家に入った時から、ずっと甘い煙が漂っていた。

田中もほとんど休まず吸っていた。

今日はそれがない。

ニルスが田中を見る。

田中はケーキに夢中だ。

「田中先生、今ケーキで楽しくて忙しいヨ! 悲しいの時吸うネ!」

「…………」

なんて返せばいいんだ。

田中は聞いてない。

黄色っぽいケーキを切っている。

ニルスも、言ったあとで少し気まずくなったらしい。

「あー……」

何か別の話題を探すみたいに目を動かした。

それから、ぱっと顔を上げる。

「先生のタバコね、すごい薬ネ!」

「薬?」

「ウン!」

ニルスは自慢するみたいに田中を指さした。

「田中先生、庭の草、特別な魔法で薬に変えますヨ! 田中先生しか出来ないヨ!」

「へえ」

「先生、女神様から教わった言ってたヨ!」

そういえば、田中も俺と同じ転生者だ。

転生者用の窓口もある。

俺も一回行った。

「先生が魔法使わないと、ただの草ヨ!? すごいネ〜!」

ニルスは本当に誇らしそうだった。

地元の有名人を自慢している顔だ。

「あと、大魔術師以外が使うと死ぬヨ!」

「え!?」

待て。

「死ぬの!?」

「ウン!」

「俺、昨日あの煙ずっと吸ってたんだけど!?」

「吸った?」

「田中が二時間くらい目の前で吸ってただろ! 部屋中煙だったじゃん!」

「あ〜」

「大丈夫なの俺!?」

ニルスは少し考えた。

「わからないナ〜」

「分からないの!?」

思わず声が大きくなった。

田中が顔を上げた。

俺とニルスを見る。

何か言った。

「先生、何騒いでるって」

「大魔術師以外があの薬使ったら死ぬって言うから! 俺昨日めちゃくちゃ煙吸ってただろ!」

ニルスが田中へ説明する。

田中は最初、何の話か分からない顔をしていた。

途中で。

「あ〜」

という顔になった。

露骨に。

それから俺を手招きした。

「なに?」

近づく。

田中が英語で言った。

「Cannabis.」

「…………?」

なんだ?

キャン……?

俺の顔を見た田中が止まった。

一秒くらい。

それから、ものすごく嫌そうに「あー」と息を吐いた。

昨日の俺の英語力を思い出したらしい。

田中はわざと一語ずつ区切った。

しかも、妙に日本人っぽい発音で。

「ニアリー・マリファナ!ドゥー・ユー・アンダースタンド?」

「…………マリファナ?」

田中が頷いた。

「……大麻!?」

もう一度、頷く。

その瞬間。

頭の中で、昨日のことが一気に繋がった。

甘い煙。

ずっと赤い田中の目。

二時間くらいあの部屋にいて、途中から俺もニルスも妙に楽しくなってきたこと。

さっきの。

『悲しいの時吸うネ』。

「…………あれ、全部大麻だったのかよ」

田中がまたケーキを食べ始めた。

「待て待て待て!」

俺はニルスを見る。

「”ほぼ”なんだろ!?実は毒とかあるんじゃねぇの!?大魔術師以外死ぬんじゃないの!?」

ニルスが田中に聞く。

田中は面倒そうに返事をした。

「先生、『昨日くらいの煙で死ぬわけない』って」

「じゃあなんで死ぬって教えてんだよ!」

ニルスがまた聞く。

田中が少し目を逸らした。

「先生、『危ない薬だから、勝手に使わないように強く言ってる』って」

「盛ってんじゃねえか!!」

ニルスが俺と田中を交互に見る。

「でも薬ヨ?」

「いや、それはそうだけど!」

田中が何か付け足した。

「先生、『遊びで使うな』って」

「お前は使ってるじゃん!」

訳される。

田中の顔が一気に不機嫌になった。

何か短く返す。

「先生、『薬で使ってる』って」

「……あ」

さっきのニルスの言葉を思い出す。

悲しい時、吸う。

俺はそれ以上言えなくなった。

代わりに、田中の目を見る。

真っ赤だ。

「……じゃあ、その目も?」

指さす。

田中は俺の指と自分の目を見比べて。

少し間を置いて、頷いた。

「…………」

紅眼の大魔術師。

紅眼。

大麻。

急に神秘性がなくなった。

◇

田中はまた白いケーキに戻った。

本当に三つを交互に食っている。

しばらくして、ふと思い出したみたいにニルスへ何か言った。

「ナニ?」

ニルスが聞き返す。

田中が俺を指さす。

「あー!」

ニルスが俺を見る。

「先生、昨日聞けなかった。タックミさん、女神から何もらった?」

「あ」

昨日。

田中が英語で長々話し始めた時、そんなことも聞かれた気がする。

結局、俺が英語を話せなくて答えられなかった。

「俺?」

「ウン!」

胸を張る。

これは普通にいいものをもらったと思っている。

「イケメンの顔と、丈夫な身体!」

「カオ?」

「誰が見ても格好いい顔。あと病気になりにくくて、骨も丈夫で、体力ある身体」

ニルスが田中へ訳していく。

田中の手が止まった。

フォークを持ったまま。

俺を見る。

顔を見る。

少し下まで見る。

また顔を見る。

「なんだよ」

田中が短く何か言った。

ニルスが黙った。

「何?」

「……先生、『うわ……頭悪そう』って」

「は!?」

田中がもう一言。

ニルスがさらに困った顔をした。

「……『いや、悪いか』って」

「訂正すんな!!」

田中は鼻で笑った。

ムカつく。

「お前だって超記憶選んで今めちゃくちゃ苦労してんじゃねえか!」

ニルスが訳す。

田中が即座に言い返した。

「先生、『俺のは仕事で死ぬほど役に立ってる』って!」

「俺だって身体はめちゃくちゃ役に立ってるよ!」

これまでの仕事を思い出す。

ドラゴンの糞を洗った。

山を歩いた。

猪に噛まれた。

イモクイに襲われた。

真珠貝を延々運んだ。

丈夫じゃなかったら、どこかで潰れていた気がする。

ニルスが訳す。

田中は少し考えた。

それから何か言う。

「先生、『身体はまあ悪くない』って」

「顔も褒めろよ!」

また訳される。

田中は俺の顔を見た。

何も言わずにケーキを食べた。

「おい!!」

ニルスが笑っている。

「だいたい、顔は何に使うつもりだったって!」

「モテると思ったんだよ!!」

訳された。

田中が俺を見る。

ものすごく静かに。

「その目やめろ!!」

◇

そこから先は、別に大事な話をしなかった。

むしろ、大事じゃない話の方が長かった。

日本の話。

田中が来てから十一年。

俺がここへ来てからの時間とは比べものにならない。

だからなのか、どうでもいい話ほど食いついた。

コンビニ。

カップ麺。

自動販売機。

満員電車。

夏の東京。

ニルスに一つずつ訳してもらう。

訳しにくいところは、田中が簡単な英単語を出して、俺が分かるところだけ拾った。

「コンビニ、夜も開いてるの?」

ニルスが聞く。

「店によるけど、ずっと開いてるところ多いよ」

田中も頷く。

ニルスが目を丸くした。

「ニホン、人、寝ない?」

「寝るよ!」

田中が何か言う。

「先生、『働く人が寝られないだけ』って」

「やめろ。思い出したくない」

俺は残業帰りにトラックに轢かれたんだ。

田中が笑った。

今度は俺が満員電車の話をした。

朝の電車で、知らない人間同士がぎゅうぎゅうに詰まって運ばれる。

ニルスが途中から信じられない顔をしていた。

「毎日?」

「毎日の人もいる」

「ナンデ?」

「仕事」

「奴隷みたいネ」

「言うなよ…」

田中まで笑い出した。

なんでお前まで笑うんだ。

そのあと、カップ麺の話になった。

田中が英語で何か短く言う。

「Cup noodles.」

「それは分かる!」

田中がちょっと驚いた顔をした。

「その顔やめろ!」

ニルスは首を傾げている。

「お湯入れて待つだけ!」

「魔法?」

「違う!」

田中が腹を抱えて笑った。

なんだかんだで。

気づけば、かなり長く喋っていた。

昨日みたいに、日本人を見つけたというだけで興奮して質問をぶつけ合う感じじゃない。

本当に、ただの雑談だった。

この世界では何の役にも立たない話ばかり。

それでも、久しぶりに日本のことを説明しなくても分かる相手がいるのは変な感じだった。

正確には、言葉は全然通じてないんだけど。

◇

窓の外が少し暗くなり始めた。

「そろそろ帰るヨ?」

ニルスが言った。

「あ、もうそんな時間?」

田中を見る。

ケーキは三つともまだ残っている。

でも、明らかに最初より減っていた。

本当に明日までに食い切る気らしい。

「じゃあ、またな」

どうせ通じないのでニルスに訳してもらう。

田中が何か言った。

それから立ち上がって、紙の山の横を漁り始めた。

「なに?」

しばらくして、小さな紙を一枚取り出した。

俺に差し出す。

受け取る。

厚めの紙。

文字が印刷されている。

「…………読めねえ」

カルヴェン語だ。

俺が読めるのはセラキア語だけだ。

ニルスが覗き込んだ。

「先生の名刺ヨ!」

「名刺あるんだ」

「仕事するからネ!」

ニルスが上から指で追っていく。

「田中、慧」

「うん」

次。

「特別高等魔法術師」

「…………」

なんか。

「思ったよりカッコよくないな……」

「エ?」

「いや、すごそうではあるけど。紅眼の大魔術師って先に聞いてたから、もっとこう……」

ニルスがそのまま田中へ訳した。

田中の顔が険しくなる。

何か言い返した。

「先生、『国家資格に格好良さ求めるな』って!」

「そりゃそうなんだけど!」

ニルスは名刺の下を指さした。

「ここ、先生の家の住所」

「うん」

「ここ、電話」

「電話?」

見る。

数字が並んでいる。

「田中、家に電話あるの?」

「アルヨ!」

「あるんじゃん!」

田中が何を驚いているんだという顔をした。

ニルスが笑う。

「先生、仕事の電話するヨ!」

まあ、そりゃそうか。

大魔術師。

正式には特別高等魔法術師。

仕事で依頼を受けるなら、電話くらい持っている。

田中がまた何か言った。

「先生、『また来るなら先に電話しろ』って!」

「分かった」

名刺を財布にしまう。

異世界に来て、日本人の名刺をもらうことになるとは思わなかった。

しかも、特別高等魔法術師。

肩書きだけ見れば、めちゃくちゃ立派だ。

本人は髪ぼさぼさで、大麻を吸って、ホールケーキ三つを二日で食おうとしてるけど。

「じゃ、帰るヨ!」

「おう」

玄関へ向かう。

後ろを見る。

田中はもう座っていた。

俺たちを見送るより先に、またケーキへ手を伸ばしている。

戸の外へ出た。

冷たい空気が頬に当たる。

ニルスと並んで歩き始める。

少しして。

「なあ、ニルス」

「ウン?」

「田中、あのケーキ、本当に明日までに三つ食うと思う?」

ニルスは迷わなかった。

「食べるヨ! 先生、ケーキ好き!」

「だよな……」

俺は財布の中の名刺を思い出した。

まあ。

連絡先は手に入った。

また話したくなったら、電話すればいい。

今日はもう十分だ。

俺はニルスと一緒に、昨日と同じ家へ帰った。

◇

家に着くころには、外はもう暗くなり始めていた。

「寒っ」

「今日も飲むカ?」

戸を閉めながら、ニルスが聞いてくる。

「飲む!」

そこは迷わない。

昨日買った透明な酒がまだ残っている。

ニルスは簡単なつまみを出して、二つの器に酒を注いだ。

今日は温めないらしい。

俺ももう、乾燥ウジを使うかどうかなんて気にしなくなっていた。

「乾杯!」

「カンパイ!」

器を軽く合わせる。

酒を飲む。

冷たい。

でも、歩いて火照った体にはちょうどよかった。

しばらく黙って飲んでいると、ニルスが俺を見る。

「タックミさん、楽しかった?」

「ん?」

「今日。先生と話す。楽しかった?」

「ああ……」

考える。

ケーキ三つ。

大麻。

英語で馬鹿にされて。

俺の転生ボーナスまで馬鹿にされた。

「楽しかったけど、ムカつく」

ニルスが笑った。

「先生も楽しそうだったヨ!」

「そう?」

「ウン。いっぱい話したネ」

言われてみれば、そうかもしれない。

昨日は二時間。

今日は昼から夕方まで。

あいつ、人付き合い嫌いそうなくせに、俺とはずいぶん長く喋っていた。

十一年ぶりに日本人に会ったんだから、まあ、少しくらいは楽しかったのかもしれない。

「でも俺のこと絶対馬鹿だと思ってるよ」

「思ってるネ!」

「そこ即答すんなよ!」

ニルスが声を上げて笑う。

俺も笑った。

もう一杯飲む。

昨日は、この国に来てから起きたことをずっと考えていた。

イモクイに食われかけて。

真珠を拾って。

日本人の大魔術師に会って。

今日はそいつがケーキを三つ並べて食っていて、大麻を吸っていることまで分かった。

なんなんだ、この国。

でも。

あと何日かで帰ると思うと、少しもったいない気もする。

「ニルス」

「ウン?」

「明日もなんかうまいもの食おうぜ」

「イイヨ!」

「魚な」

「魚いっぱいアルヨ!」

それだけ決めて、また酒を飲んだ。

その夜は、昨日よりずっと早く眠くなった。

布団に入る。

目を閉じる。

田中の名刺は、財布の中に入っている。

明日は明日で、カルヴェンをもう少し見て回ればいい。

そう思っているうちに、すぐ眠った。

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